衛星TV会社DISH TVがT-Mobile US買収競争に参入の意思あり
アメリカ2大衛星TV会社の小さいほうのDISH TVの会長のErgen氏は最近ドイツテレコムにコンタクトし、DISH TVがT-Mobile US買収に興味があると伝えた、とBloomberg誌は報道しています。
【Bloomberg】Dish Said to Discuss T-Mobile Deal With Deutsche Telekom – 2014年9月5日
これは予想通りの動きであり、特に驚くことではありませんが、フランスIliad社のT-Mobile US買収提案と、SprintのT-Mobile US買収断念後、DISHの動きがこれまでに報道されなかっただけに、今日のBloomberg誌の報道はDISH TVの意図を確認するための意味で業界や投資家は安心するでしょう。
Iliad社もまだT-Mobile US買収を諦めてはおらず、資金調達のために買収専門の投資団体などに接触を続けて、より良い買収提案を提案する努力を続けているようです。
Ergen会長は今年(2014年)5月にも「ソフトバンクをバックにしたSprintと競争すると資金的に負けるのはわかっているので今は参加しないが、SprintがT-Mobile US買収を断念、または規制当局の許可が得られずに失敗すれば、DISH TVとしてはT-Mobile US買収に興味がある。」と話しており、今日のBloomberg誌の報道は当然の流れです。
ただし、Ergen会長はドイツテレコムに対し、「今は(2014年)11月のAWS-3(上り1700MHz/下り2100MHz)の周波数使用権入札に参加するために資金準備をしており、T-Mobile US買収提案はその競売の後で考える」と伝えているので、DISH TVからの提案は11月以降になりそうです。また、ドイツテレコムもそれまでに急いでIliad社や他社の提案を承諾することも無さそうです。
T-Mobile USも既にAWS(AWS-1)で3GとLTEをメインにサービス開始しており、その帯域をさらに広げるためにAWS-3競売には参加する予定で、社債を発行して競売に望む予定であることを最近、SEC(証券取引監視委員会)へ報告しています。
DISH TVは今年3月の1900MHz Hブロックの競売でも同周波数の使用権をほとんどの地域で独占的に落札しており、未使用の周波数使用権をかなり抱えています。
DISH TVとしては衛星TVで配信しているコンテンツを自社衛星放送サービス加入者に「いつでも、どこでも」視聴してもらうためにロケフリ・ハードメーカーのSling(Slingbox)を買収して子会社化しており、自社セットトップBoxにその技術を内蔵し、DISH Anywhereサービスとして加入者に提供しています。また、そのサービスはSouthwest航空の機内でも無料で体験視聴できます。
DISH TVが使用しない周波数使用権をかき集めているのは、「『いつでも、どこでもマルチメディア視聴』を実現するために、自社で携帯事業を始める計画」という可能性もあり、今までも何度か「DISHが試験的に携帯事業を一部地域で始めたらしい」というニュースが流れていましたが、現実的には自社でゼロから携帯事業を始めるよりは既存の携帯会社を買うほうが手っ取り早く、Sprint/ソフトバンクが断念した後のDISHによるT-Mobile USの買収は、当然のように考えられています。
アメリカでは固定光回線でU-verse有料TVサービスを一部の地域で提供しているAT&Tが(2014年)5月に加入者数で衛星TV第一位のDirecTVを買収することを発表しており、現在、政府規制当局が認可審議中です。
また、Verizonも固定光回線FiOS有料TVサービスを一部の地域で提供しています。
これらの会社はコンテンツ制作・配信会社との既存契約をさらに有利に(かつコストを安く)しながら、モバイルでのマルチメディア配信に向けて体制をいっそう整えています。
そういう動きの中でDISH TVとT-Mobile USの合併が実現すると、単なる通信事業社間の競争ではなく、「マルチメディア・コンテンツの高速モバイル配信」という次世代エンターテインメントの分野でAT&T/U-Verse/DirecTV、Verizon/FiOS、DISH TV/T-Mobile USの3社競争が激しくなることになります。そして、高速モバイル通信を持っていないCATV会社のComcast/Time Warnerや、コンテンツへの格安アクセスを持っていないSprintが、これら三連合から取り残されてさらに事業規模に差が大きく開いていく可能性も出てきます。