T-Mobile US獲得戦に、Comcastも参加か?
アメリカ国内で、コンテンツ配信業界とモバイル業界の統合が加速化しています。
従来型のコンテンツ配信会社
● CATV配信会社 ・・・ Comcast、Time Warner、Cox、Charter、など
● 衛星TV ・・・ DirecTV、Dish Network
● 光ファイバー配信会社 ・・・ AT&T U-Verse、Verizon FiOS
は、IP型コンテンツ配信会社
● Hulu、NetFlix、など
に視聴を奪われ、いわゆる「有料TV」加入者数が年々減っています。
この傾向に対して従来型コンテンツ配信会社は有線(CATV、光ファイバー)や固定パラボラアンテナ(衛星)を経由して提供するコンテンツを、最終的にはモバイル(ワイヤレス)でも提供出来るようにするために、過去1-2年模索をしています。
たとえば、DISHは米政府の携帯通信用電波使用権の入札に何度も参加し、獲得しています。これまでも何度か「DISHが自社で携帯事業を立ち上げようとしている」という噂も流れています。そして、昨年(2013年)12月からはSprintとTD-LTEを使用した固定ワイヤレス配信サービスを試験運用しています。
同様にComcastはWiFiアクセスポイントの拡大を実施しており、既に100万ヵ所にWiFiホットスポットを設置し、年末までに800万ヵ所に増やす予定だとも言われています。しかし、WiFiホットスポットだけではモバイル配信を提供できる範囲は限られており、いずれはMVNO携帯事業を自社で開始すると見られていました。
このような状況に、「携帯事業」と「光ファイバーを使ったコンテンツ配信事業(有料TV)」の両方の事業を持つAT&Tは、衛星によるコンテンツ配信会社のDirecTVを買収すると、2014年5月20日に発表。
これにより、コンテンツ配信事業を展開している会社と、モバイル事業を展開している会社の統合が更に加速化すると見られています。
AT&TがDirecTVを買収すると発表した直後に話題になったのは、「SprintがT-Mobile US買収提案を出し、それが米政府による認可に失敗すれば、DISH NetworkがT-Mobile US買収提案を出すだろう。」という推測。これは、DISHのCEOのErgen氏も「T-Mobile US獲得でソフトバンク/Sprintと競合すれば、負けるのはわかっているので手を出せない。しかし、ソフトバンク/SprintがT-Mobile USを買収できなければ、DISHとしてはT-Mobile USに興味がある。」と既に発言していることから、可能性の高い結果であるとされています。
USB証券会社の業界アナリストのHodulik氏は一昨日、このような流れの中でCATV配信会社のComcastがモバイル事業への参入決定を早める必要があり、その選択肢としてT-Mobile US買収に踏み込む可能性がある、と述べています。加入者数でCATV業界第一位のComcastは今年2月に業界第2位のTime Warnerを買収することを発表しており、現在、FCCと司法省で認可審査中です。結果は年末までに判定される予定です。これは一人の業界アナリストによる意見であり、Comcast側からは何も発表されていません。
また、Comcastは現在審査中のTiMe Warnerとの買収案件が完結するまで待つのか、SprintがT-Mobile US買収案を発表したら待たずに競合提案を出して買収価格を吊り上げるのか、も予想出来ません。
【Barron’s】Comcast: AT&T for DTV Could Prompt Bid for T-Mobile, Says UBS – 2014年5月22日
いずれにせよ、過去1年で600万件もの加入者増を達成し、アメリカ携帯業界に今、一番旋風を投げかけているT-Mobile USは、Sprintに対しても強気で、買収失敗した場合(認可当局に認可されなかった場合のBreak-up Fee、違約金)に10億ドル(約1000億円)以上を要求しているという報告もあります。もし、ソフトバンク/SprintによるT-Mobile US買収が失敗した場合には、T-Mobile USはDISHまたはComcastに取られ、ソフトバンク/Sprintは10億ドルを失くし、携帯業界ではSprintだけが取り残されることになりかねない危険も出てきました。
もっとも、このUSB証券会社アナリストの意見発表から、ComcastとT-Mobile USが合併すれば、SprintはDISHと合併せざるを得ない状況になるかもしれませんが・・・または、インターネット・メディア会社を目指すソフトバンクにはHuluやNetFlixのほうがパートナーとしては適格かもしれないですが、事業規模が小さいのが問題ですね。
光ファイバーによる有料TV事業 FiOSを持つVerizonは、現在のところは「DISH Networkには興味は無い。」と発表しています。また、Verizonは2年前にComcast等から電波使用権を購入した代わりに、Verizonの携帯サービスをComcastが紹介できる「ゆるいパートナー関係」を続けています。
また、別件ですが、2014年5月15日のFCC委員会では周波数所有帯域(Spectrum Screen)の再定義が投票で可決され、Sprint所有の高周波2.5GHzもカウントされることから、SprintがT-Mobile US買収提案を出すと、周波数の一部を他社に譲渡しなければならないことは確実と思われます。
そして、T-Mobile USを67%所有しているドイツテレコムは、T-MobileとMetroPCSが合併した2013年5月1日から、T-Mobile US株の切り売りを自粛していましたが、その自粛期間が2014年10月末で切れることから11月1日からは状況次第で株を証券市場で切り売りしていく可能性も出てきます。ソフトバンクは今ならドイツテレコムさえ説得すればT-Mobile US買収案を提出できますが、第3者株主が増えると、説得する相手が増えます。
状況がどんどん複雑化して追い込まれる中、ソフトバンク孫社長の判断が注目されます。