アメリカで法廷通訳者になるためのステップ・バイ・ステップ手順
さて、先日、アメリカで医療通訳士として活動するステップ・バイ・ステップ手順を書きました。
アメリカで医療通訳士として活動するためのステップ・バイ・ステップ手順 – 2015年5月7日
まだ記憶が新しいうちに、アメリカで法廷通訳者になるためのステップ・バイ・ステップ手順も書きましょう。
その前に、裁判所での通訳者は誰が雇うのか、誤解している人が多いと思うので、簡単に説明します。
以前にも書いたように、
アメリカの通訳の資格(医療通訳、法廷通訳)と、無料通訳サービス – 2014年6月21日
アメリカでは「Title IV(1964年制定公民権法、第6条)」により、住民の公共サービスの受益の平等を確保するため、連邦政府の資金的な援助を受けている施設は、施設側がその費用で言語サービス(通訳)を提供することが要求されています。
裁判所での通訳も、例外ではありません。
したがって、裁判において「原告、被告、または、証人」として呼ばれた場合に通訳が必要な場合には、呼ばれた人(または代理人である弁護士)が裁判所(法廷)に事前に通訳を要請すれば、裁判所は当日、裁判所が法廷通訳者として認めた通訳者を、裁判所の費用で用意する義務があります。 (法廷通訳者として最適な通訳者が用意できない場合には、法廷手順に詳しい電話通訳者を用意する場合もあります。)
また、交通違反を含む軽度の違反や犯罪で法廷に呼ばれた場合、出頭日当日に州・郡・市裁判所に出向いて、検事や裁判官との会話の中で「当事者が英語をよく理解していない」と判断された場合、裁判(出頭)のやり直し(数週間~1ヵ月後)を言い渡されることがあります。この場合、当該裁判所は「やり直し裁判(出頭)」の日に、裁判所の費用で法廷通訳者を用意します。
つまり、法廷通訳者を雇うのは、裁判所です。裁判所に呼ばれた人は、裁判所に対して、裁判(出頭)当日に自分に通訳を付けて貰うよう、リクエストする権利があります。
裁判所に呼ばれた人が、自分で通訳を雇って、裁判所に一緒に行って貰うわけではありません。
また、裁判所の「法廷」内で自分の身内や知り合いが「通訳行為」を行うことは、認められていません。身内や知り合いでは、私見を伴わない、中立で公平な立場での通訳が行えないためです。(身内や知り合いや弁護士に相談するのは構いませんが、それは通訳行為ではありません。)
■ 法廷通訳者になるためのステップ
各州の法廷通訳者資格や、通訳者への支払額などは、以下のページにまとめられています。
1.州裁判所(法務省)開催の法廷通訳者研修を受講する
各州の裁判所(法務省)では、法定通訳者研修を定期的に行っています。
まずは、受講料を払ってこれに参加します。
筆者が住んでいる州(コロラド州)では研修期間は2日間、内容は主に
(1)裁判制度、
(2)法廷通訳者としての職業倫理、
(3)逐次通訳、同時通訳、サイト翻訳の使い分け
など。クラスメートとの演習も毎日あります。
2.英語の筆記試験を受ける
受験料を支払い、当該州、または、NCSCが準備した「筆記試験」を受験します。試験は州ごとに実施されます。
試験は、マルチプルチョイスです。
追記(2015年6月12日):
TransInterpreting.comが、オンラインでの4時間の法廷通訳筆記試験準備コースを提供しています。筆記試験に自信の無い人や事前準備をしたい人は考慮に値します。受講料は現在、$89です。
【TransInterpreting.com】Preparation for the Written Portion
of the Consortium Interpreter Exam for State Courts
3.(州によっては)法廷通訳能力口答試験を受けます。
カリフォルニア州など日本人人口が多い州では、日本語法廷通訳者は法廷通訳能力口答試験もパスしなければなりません。
筆記試験に合格してすぐに口答試験を受ける必要は無く、数ヶ月または1~2年の猶予があるはずです。その間に経験を積んで、法廷通訳能力口答試験に準備することが出来ます。
また、州によっては日本語は法廷通訳能力口答試験は無いものの、言語能力査定として、英語と母国語(通訳対象言語)の能力試験を第三者機関で受け、その結果を提出する必要の有る場合があります。
アメリカの多くの、日本人人口が少ない州では、日本語法廷通訳者の口答試験はありません。
法廷通訳者には
- Certified Court Interpreter (通訳口答試験もパスして、正式に法廷に認定された通訳者)
- Approved または Qualified Court Interpreter (筆記試験のみパスして、法廷内での通訳を承認された通訳者)
の2種類があります。多くの州では日本語のCertified Court Interpreterは存在しません。(カリフォルニア州は日本語のCertified Court Interpreterが居ます。)
4.犯罪歴調査(バックグラウンド調査)を受ける。
警察署で指紋用紙に指紋を押して、州裁判所(法務省)ラングエッジサービス担当窓口に提出して、犯罪歴調査(バックグラウンド調査)をして貰います。
5.州裁判所(法務省)ラングエッジサービスに正式登録
筆記試験、(州によっては、法廷通訳能力口答試験、または、言語能力査定結果)、犯罪履歴調査にパスすると、州裁判所(法務省)のラングエッジサービスに正式に登録されます。
あとは、裁判所からの連絡を待つだけです。
法廷通訳者の時給は、全米平均$35-50、最低2時間。カリフォルニア州のように半日または1日単位で払う場合もあります。
遠隔地の場合には出張費(通常、通訳時給の50%)や自家用車使用のマイレージ補填が出る場合があります。
医療通訳者の場合と同じく、スペイン語通訳者は裁判所にフルタイムで雇われ、管轄内の裁判のスペイン語通訳をする傍ら、他言語の通訳者の手配とスケジューリングを行う「Managing Interpreter」という仕事があります。
はっきり言って、筆者が住んでいる州では日本人が関わって通訳を必要とするような裁判は年に数えるほどしかありません。しかも、多くは交通違反関連と離婚争議関連です。
6.法廷通訳者資格の継続
医療通訳士の場合と同じく、法廷通訳者も定期的に生涯教育(Continuing Education)を受講することを義務付けている州もあります。
内容は、相続関連、離婚、交通違反、など、法律分野に分けて法手続きの手順が扱われ、その裁判や手続きに使われる法廷用語が取り上げられます。
7.法廷通訳者になると・・・
アメリカの裁判制度では法廷内での裁判手続きとは別に、法廷外での証人喚問、裁判所命令による当事者間協議、などがあります。
証人喚問は、少なくとも法廷筆記者(Court Reporter)の手でその内容を記録され、ビデオ撮影されることもあり、場合によっては実際の裁判の証拠として法廷内での裁判に提出されます。
また、主要案件(法廷内や証人喚問時)では、メインの通訳者とは別に、反対側弁護士が「チェック専門通訳」を雇うことがあります。この「チェッカー通訳」の役割は、メインの通訳者が誤訳していないかどうかを監視して見つけることです。
これとは別に、弁護士事務所で弁護士と依頼主との間に入って、法律相談の通訳を依頼される場合もあります。
また、州の労働省などの雇用主と雇用者との間の仲裁(聴聞)の通訳を依頼される場合もあります。
以上のような場合の通訳は正式な「法廷通訳者(Certified Court Interpreter、Approved または Qualified Court Interpreter)」を雇う必要はありませんが、法律的な場での通訳者職業倫理と法的手順を知っている法廷通訳者が居れば、その人を雇うほうが賢明です。したがって、「法廷通訳者資格」を取得しておくことによって、法廷外のこれらの法的な場での通訳活動においても暗黙の資格証明となります。「法廷通訳者資格」を持っていないと、このような場面で弁護士などに法的通訳の資格や経験を説明しなければならないことが多く、相手の弁護士に通訳能力を疑われることも多いです。資格の無い通訳者による法廷外証人喚問は、相手側や相手側弁護士に「通訳失格」と指摘させる隙を与え、裁判の無効ややり直しを相手が主張する場合もあり、リスクが高まります。
8.州の法廷通訳者で経験を積んだら・・・
州の法廷通訳者として数年活動し、経験を積んだら、連邦裁判所の法廷通訳者登録を目指してください。
【備忘録】アメリカの連邦政府系通訳資格リスト – 2015年5月7日
連邦法廷通訳者として認定(日本語の場合にはProfessionally qualified interpreter と Language skilled interpreters)されると、連邦関連裁判(連邦法務省関連、独占禁止法関連、移民関連、人権侵害関連、など)に派遣されます。
ちなみに、連邦法廷通訳者でも日当が、Professionally qualified interpreterで1日$412、Language skilled interpretersで1日$198。
医療通訳士もそうですが、アメリカの法廷通訳者の収入って、安いですよね~
医療通訳資格も法廷通訳資格も2000年代に入って全米標準化の動きが進んだのが、問題ですよね。