共同通信の「ソフトバンクの米社買収、独容認」報道は、何も新しい内容が無い


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昨日、共同通信が「ソフトバンクの米社買収、独容認」と言うタイトルの記事をリリースしましたが、その内容を読みましたが、何も新しい内容がありません。

この記事前文は、地方紙が複数取り上げていますので、それを読んでみます。例として、
【佐賀新聞】ソフトバンクの米社買収、独容認 ~ 米規制当局の対応が焦点に – 2014年5月29日

また、この共同通信のニュース報道を受けて、ロイターが関係各社にコメントを求めていますが、ドイツテレコムとSprintはコメントを拒否、T-Mobile US/ソフトバンクからはまだ何も得られていません。
【Reuters】Deutsche Telekom agrees Softbank’s plan to buy T-Mobile: report – 2014年5月29日

共同通信の話は、「業界筋からの情報」となっているようです。(以下、太字は共同通信の記事からの抜粋。)

『ソフトバンクが検討を進める米携帯電話4位TモバイルUSの買収を、親会社の欧州通信大手ドイツテレコムが容認していることが29日、分かった。』

このソフトバンク/SprintによるT-Mobile US買収意向の話は昨年12月から浮上している話で、その時点でドイツテレコムは容認していると思うんですけど・・・

『今後は、競争促進の観点から米通信業界の一段の再編に慎重な姿勢を示す米規制当局の対応が焦点になる。』

通信関連を審査するFCCの意見は多少「経営的にSprintとT-Mobile USは単独での長期生存は難しい・・・かもしれない」という意見方向に傾きかけているようですが、独占問題を審査する司法省の意見は相変わらず「この合併には反対」の強固な態度は変わっていないようです。

『関係者によると、ソフトバンクの孫正義社長が、Tモバイルとドイツテレコム両社の首脳クラスと5月中旬に会談した。この中で孫社長が買収を提案し、前向きな回答を得たという。』

条件次第の「前向きな回答」でしょう。

『3社は最終合意に向け、具体的な買収方法など詰めの交渉を急ぐ。』

これが一番難しいんですよね。特にT-Mobile USは昨年(2013年)3月からの「脱キャリア運動」で加入者数を急激に伸ばしており、強気です。
約3週間前のニュースによれば、ドイツテレコム/T-Mobile USは
● 規制当局がこの買収を認めなかった場合の手切れ金(違約金、Breakup Fee)として最低10億ドル(約1000億円)を要求している。
● 合併後の会社のトップ経営陣は、現T-Mobile USを主体とする。
● T-Mobileのブランドと名前を残す。
を要求しているらしいです。

まあ、アリババ上場で数百億ドルレベルでかなり儲かる見込みが見えてきたソフトバンク、および、孫氏個人としては、「規制当局からの認可が出るかどうかに対して10億ドルで賭けをするのは、金銭的にはそんなに問題ではない。」という風に思えてきたのかもしれません。

『一方で、米連邦通信委員会(FCC)など規制当局は、寡占化の弊害が出る恐れがあるとみて、買収に難色を示している。』

アメリカ携帯業界は順調にLTE成長が伸び、『GSM/W-CDMA 2社(AT&T、T-Mobile)、対、CDMA2000 2社(Verizon、Sprint)』から『LTE 4社』に変わりつつあります。そのLTE通信の土俵で一番遅れているのはSprintですが、まあ、亀の速度でLTE化しているSprintも、年末までには他社と同じ土俵でLTEを語れるようになるでしょう。そうなれば、規制当局もSprintとT-Mobile USの合併は容認せざるを得なくなります。

ただ、問題は、現在、(使っているかどうかは別として)周波数認可を一番多く持っているのはSprint。これに合併後にT-Mobile USの周波数を加えると、2社で携帯電話会社保有周波数帯全体の3分の一以上をはるかに上回ります。そうなると、独占排除を求めてSprint/T-Mobile USは所有一部の周波数を他社に譲渡するように勧告されるでしょう。

Sprintは800MHz、1900MHz、2.5GHzの周波数を現在持っていますが、2.5GHzはソフトバンクにとっても大事なTD-LTEの周波数で、戦略的に手放せない。800MHzはプラチナバンド(1GHz以下)なので、これも手放せない。
T-MobileはAWS(Band 4)と1900MHz所有。T-Mobile USの AWSを手放すと、元T-Mobile加入者の多くがAT&Tに流出していく可能性があります。なぜなら、3G通信はW-CDMA通信方式を使っているT-Mobile USのスマホやiPhoneはSIMロック解除すると、AT&Tで使用できるからです。

よって、独占規制当局の勧告で周波数譲渡が命じられた場合、Sprint/T-Mobile USはどれを手放すか、戦略的に悩まないといけません。

■ 新しい状況

2014年5月18日に固定・携帯・光TV事業のAT&Tが、衛星TVのDirecTVを買収する(規制当局の認可次第)という発表があり、これで通信とコンテンツ(有料TV)の2つの隣接業界の融合が加速される起爆剤が出ました。

衛星TV業界第2位のDish Networkも有料コンテンツを移動通信経由で配信することを年末までに計画中で、そのために周波数使用権の競売に参加して獲得しています。Dish Networkは自社で携帯事業を始めることも事業可能性としては有り得ますが、自社所有の周波数使用権を武器に既存の携帯事業者とパートナーを組む、または、合併するのが、より論理的で経済的にも安価な道と見られています。
「VerizonがDISH買収には興味は無い」と発表しており、DISHは「SprintによるT-Mobile US買収が失敗すれば、DISHとしてはT-Mobileに興味がある。」とCEOが声明を出していることから、DISHは状況次第でT-Mobile US買収提案を出す可能性があります。

また、CATV業界第1位のComcastと第2位のTime-Warnerは合併に合意し、現在、規制当局で審査中ですが、AT&T/DirecTV買収案がその後で出てきており、Comcastも移動体通信整備の必要性が急務となりました。Comcastが現在マーケティングパートナーであるVerizonと更に関係を強化するのか、T-Mobile US買収に向かうのか、どちらの可能性も出てきました。

更に、加入者数で世界最大の、中国のChina Mobile(中国移動)が北米への進出を目論んでいるでいる、という報告もあります。
【CNN Money】China Mobile has its sights set on the U.S. wireless market – 2014年5月28日
ここでも、もし、ソフトバンク/SprintのT-Mobile US買収が失敗すれば、China Mobileが選択肢の一つとして、T-Mobile USや、親会社のドイツテレコムと、パートナーまたは買収の交渉を始める可能性がある、としています。

DISHは買収価格吊り上げ競争に勝つだけの経済力は無いと見られており、CEOもそれを認めていますが、ComcastやChina Mobileは場合によってはソフトバンク/Sprintと買収価格の吊り上げで競争するだけの経済力はあると見られています。

つまり、ソフトバンク/SprintがT-Mobile US買収を、規制当局からの認可が得られずに失敗すると、引っ張りだこのT-Mobile USは他社にさらわれてしまうかもしれないのです。
しかも、その結果として、弱小Sprintは誰にも興味を持たれず、一社だけ取り残される可能性もあります。

■ ドイツテレコムは、2014年11月1日からT-Mobile US株を切り売りできる

最後に忘れていけないのは、昨年(2013年)5月1日にT-Mobile USAとMetroPCSが合併してT-Mobile USになった際、大多数株主のドイツテレコムは新T-Mobile USの経営を安定されるために、1年半は新会社の株を株式市場で切り売りしないことを約束しています。しかし、その自主規制が2014年10月末で切れるために、2014年11月1日からドイツテレコムは現在67%所有しているT-Mobile US株を切り売りできます。そのときにドイツテレコムが自国の通信設備整備のために現金欲しさにかなりの数の株を売却してしまうと、ソフトバンク/Sprintは大株主のドイツテレコムだけではなく、他のT-Mobile US株主をも説得できないと、株主総会で同意してもらえません。
まあ、最終的にはドイツテレコムが51%を切るような売り急ぎはしないと思うので、大きな問題ではないと思いますが、・・・



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