Sprintの今後、私見
さて、SprintがT-Mobile US買収を公式(?)に断念して1週間。
孫さんは、「Sprint(ソフトバンク)がT-Mobile USを買収する意図があるなんて、一度も公式に発表したことは無い。」と言っていますが・・・
携帯端末の世界的な卸会社をゼロから設立したBrightStarの設立者が今週の初めにSprintの新CEOとなって2日。
さらに、ソフトバンクは携帯ユーザーポリシーシステムにEricssonと提携するというニュースも数日前に出ています。(これは、昨年秋に「ソフトバンクとCISCOが、関係強化する」という発表に逆行するものです。明らかに、社内ポリシーの一貫性が欠けていることを意味します。)
これからのSprintは、どうなるのでしょう?
まず、以下の私見を書く前に、筆者はいまだにメインの携帯はSprintを利用しており、過去10年以上Sprintの加入者であることを書いておきます。
Sprintの新CEOのMarcelo Claure氏は就任後のSprint社員へのEメール・メッセージで、
1.更なる経費のカットを進める
2.ユーザーに対して魅力あるサービス(通信プラン)を提供する
ことをメインのメッセージとして社員に伝えているようです。
1.現在、Sprintの社員は36000人(2014年3月末現在)居ると報道されています。これが更に減ることになり、一部のSprint社員の士気が失われます。
このネガティブな環境の中で、いかに社員の創造性を高めていくか、新CEOMarcelo Claure氏の手腕が期待されます。
更に、ソフトバンクがSprint買収前にFCCやDoJに約束した「Sprintへの設備投資を2年間、毎年80億ドル」が、実際には設備投資(CAPEX)ではその8割しか投資されていません。これが、Sprintの通信ネットワークの質に影響しています。
Sprintは昨年秋に「2.5GHzのTD-LTE(Band 41)を利用したSparkネットワークで、実測60Mbpsが達成可能」と発表しているものの、
● Sparkが利用できるのは、現在、全米で27都市のみ
● 実質速度は20数Mbpsしか出ていない
のが現実です。
2.WiMAXを最初に(そして、唯一)アメリカで提供した5年前ころは、Sprintはアメリカの携帯会社で最もクリエイティブで、価値のあるサービスを加入者に提供していました。
それが、今では、
- 4社の中で最も月の通信料金が高い
- 4社の中で最も通信速度と、サービスエリアが、悪い
携帯会社に落ちており、それが加入者純減につながっています。これを、どうやって改善していくのでしょう?
加入者として心配なのは、
● 親会社であるソフトバンクが、優先度第一として
- 経費削減を重視している
中で、サービスレベルの低下がまず目に付く。特に、CAPEX(設備投資)が計画通りに行っていないことは、通信サービスの質の向上に期待できない。そんな状況を続けながら、加入者純減を減らそうたって、無理ジャン!
Sprintとは相対的に、T-Mobile USは「利益度外視で、この1年間サービス向上に集中し、投資も続けてきた。」ことが、毎四半期ごとに100万加入者以上の加入純増につながっています。(それに対してここまでの印象では、孫氏の方針は「設備投資する前に、経費削減」。)
● T-Mobile USが1年前から「Un-Carrier」戦略で価格破壊をしている中、AT&TとVerizonはそれに対抗して低価格プランを提供してきて、結果的にアメリカの平均月通信料金(ARPU)は下がってきた。その中で、SprintだけはT-Mobile USの価格競争への対応をしないか、対応が遅かった。
孫氏は2014年8月5日の東京でのソフトバンク決算発表会で、「(Sprintは)これまでネットワークの質が対応していなかったので価格競争にはアグレッシブに参加しなかったが、対応が出来たのでこれからは積極的に加入者に魅力あるプランを提供したい。」と言うような内容をコメントしているようですが、
- アメリカで21番目に大きな都市であるデンバーでは、まだSprintのLTEは全域でカバーされていない
- デンバー都市圏の中でも一番ハイテクユーザー/高学歴の多い都市と考えられている、コロラド大学メインキャンパスのあるボルダー市で、いまだにSprintのLTEサービスが開始されていない
という現実で、「Sprintの(LTE)ネットワークの質が、全米的に充分完備された」と宣言するのは、筆者はまだ時期尚早だと思います!
● 二つ目として、Sprintが加入者に魅力あるように通信料金を安くして、他3社と同じレベルの通信料金にしたら、Sprintの売り上げは当然減るわけで、利益も減るか、または赤字転落になります。当然、赤字になればサービスの質も落ち、設備投資も減ります。だから、今の状況で「これから(Sprintは)アグレッシブに価格を下げる」という声明は、既存加入者や株主にとっては、喜んで良いのか、更に心配する要素が増えるのか、判断に苦しむところです。
次に、孫氏は「将来的に(アメリカの)携帯業界の淘汰(合併)は必要で、その時期を待つ」ような内容のことをコメントしているようですが、これは次の大統領選挙(2016年11月)で共和党候補が勝ち、FCCの委員(5人)のうち任期切れの委員を、買収擁護派の共和党委員に入れ替えてもらうことを期待しているのです。しかし、今回Sprint(ソフトバンク)がT-Mobile US買収を断念したことで、衛星放送のDISH Network社をはじめ他社がT-Mobile USを買収を進める可能性が高くなってきました。孫氏が2年後にT-Mobile US買収を提案する前に、他の会社がT-Mobile USを買収している可能性は大きいです。
その時点で、「いやあ、やっぱりサイズが大きくないとやっていけない。(スケールが問題。)合併が必要。」と孫氏が言った場合、その時の選択肢は、すでに他社(例:DISH Network)に買収されたT-Mobile USと合併することでしょう。そのときには、合併後のソフトバンクの株所有割合は過半数以下、3分の一以下になるでしょう。プライドの高い孫氏が、合併後の株所有割合で過半数以下で我慢できるかどうか・・・が問題でしょう、そのときは。
結論:
● Sprintのネットワーク(商品)の質は、まだまだ疑問有り
● 「高くて、質が悪い」的商品(通信)からの脱却が、キー
● 将来、T-Mobile USを自社主導で買収することは、ほぼ不可能。自社主導による再生計画が重要。