アメリカのスマホ契約販売成長率はこれから鈍化?/新規携帯加入者の10人に9人がプリペイド契約!


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今日(アメリカ現地時間、2013年5月15日)のFierce Wirelessオンラインウェブサイトでは、2013年第1四半期のアメリカの携帯キャリアや携帯事情に関して、3つの興味深い記事を掲載しています。

Grading the top 10 U.S. carriers in the first quarter of 2013 – 2013年5月15日
Entner: New wireless customers chose no-contract over contract by 10 to 1 in Q1 – 2013年5月15日
For wireless carriers, the smartphone party is ending – 2013年5月15日

アメリカの最新携帯業界動向を知りたい方は、上の3つの記事を全てに目を通すことをお勧めします。

簡単にポイントだけまとめると・・・

まず最初の記事は、市場調査会社Strategy Analytics
Strategy Analyticsホームページ
がアメリカのトップ12キャリア(自社基地局を所有しているキャリア)の四半期業績報告書から抜き出して各社の業績報告を基にした、報告データです。
この12社のうち、WiMaxデータ通信のみを提供して主にSprint社へWiMax回線を卸売りしているClearWireを含めたトップ5社は全米規模のキャリア、残りはサービス地域が限られた限定地域キャリアです。また、MetroPCSは2013年5月1日よりT-Mobile USAに合併されましたが、この報告ではT-MobileおよびMetroPCSの数字は合併前の数字です。


 

これによると、これらのキャリアでは、LTEの整備が全米95%に達して最も広くカバーしているVerizonの一人勝ちが続いています。

が、直近ではT-Mobileが加入者を大きく増やしています。しかし、2013年第1四半期はまだT-MobileがiPhoneの販売を開始してはおらず、ポストペイドの「(新規加入者への)2年契約束縛廃止」も3月26日まで発表されていません。したがって、このT-Mobileの加入者急増は、iPhone効果とは言えません。T-Mobileが伸びた一つの要因は、昨年(2012年)秋から行っている「3G/HSPA+通信をiPhoneや多くの海外スマホ端末で対応する1900MHzに追加する」電波再編工事が、今年の1月にはいって対象エリアが大幅に広がり、全米のT-Mobileサービスエリアの半分近くまで増えたことがあげられます。

また、このStrategy Analytics社の分析にはMVNOのデータはまったく含まれていないのでわからないのですが、実は2013年第1四半期で最も加入者純増を達成したのは、Tracfone、Net10、StraightTalk、Simple Mobile、Telecel America、(低所得者用)SafeLinkの6ブランドでプリペイド携帯事業を行っているTracfoneグループが、第一四半期の加入者数純増でVerizonを超える純増を達成しており、この中で、3G/HSPA+ 1900MHzサービスエリアの拡大によってT-Mobile回線を使ったプリペイドSIMオンリー加入者(特にStraightTalkブランドへの加入者)が増えたためと思われます。

なおTracfoneグループは、加入者数で世界4番目に大きく、中南米を中心に携帯サービスをしているAmérica Móvilのアメリカ現地法人で、メキシコ資本のAmérica Móvilの社長、Carlos Slim氏は、2010年からForbes誌に「世界で最も金持ちの人(一番)」にランクされています。

もう一つ目立つのは、Sprintの加入者純減です。Sprintは、間もなく回線停波される「Push-to-Talk(トランシーバー)」iDen通信方式の加入者が、回線停波前にSprintのアンドロイド携帯アプリによる「Push-to-Talk」契約に移行することを期待していたものの、実際にはこれらの加入者はAT&Tの同様な「Push-to-Talk」サービスに多くが流れた模様です。
さらに、他社と比べてバックボーン回線の貧弱なSprintは、その整備に予定外の時間とコストが費やされ、計画予定通りにLTEサービスの拡大ができなかったことが既存加入者の不満となって他社へ移ったために、加入者純減に寄与していると思われます。

 
 

2つ目の記事では、2013年第1四半期では契約ベースで新規携帯加入者の10人に9人が契約期間の束縛の無いプリペイド契約を選択している、と言うことを分析しています。(新規携帯本体販売ベースではありませんので、自宅に既にある中古スマホや、直前までにポストペイド契約で使っていたスマホを使ってプリペイド契約する人を含みます。)

Strategy Analyticsの調査データによれば、2013年第1四半期ではアメリカ携帯電話業界全体で136万人の新規加入者が増えています。
ところが、2013年4月のTracfoneの業績発表によれば、Tracfone(Tracfone、Net10、StraightTalk、Simple Mobile、Telecel America、SafeLinkの合計)は第1四半期で83万9000人の純増になっています。他のキャリアの純増もポストペイド契約とプリペイド契約に分けて表示すると、以下の表のように、新規加入者136万人のうち、ポストペイド契約に加入した人は14万人しかおらず、結果的に10人のうち9人はプリペイド契約だというのです。
(細かいことを言うと、オリジナルの英語タイトルは「10 to 1(10:1)」なっていますが、「10 to 1」だとパイ(pie)のサイズの合計が11になり、計算が合いません。オリジナル投稿者の意図は「10人に1人」と解釈し、筆者責任で数字を直しています。)

 

さらに、プリペイド加入者が増えるということは、キャリアのARPU(一加入者当たりの平均売上げ)、つまり加入者が費やす月平均通信料金が下がり、キャリアの売り上げ減少に繋がります。
 
 

3つ目の記事は、New Street Researchの市場アナリストのJonathan Chaplinによれば、(フィーチャーフォン契約から)スマホ契約にアップグレードする加入者の増加率が最近鈍っているということ。 スマホによるアプリの使用頻度データを集積しているcomScore社によると、今年3月までの第1四半期ではアメリカで1億3670万人(携帯所有者の58%)がスマホを使っていたということです。しかし、昨年12月末に比べると、その数は9%しか増えていないということです。
つまり、今スマホ契約を契約している人は暫く新しい契約には変えないし、まだスマホを持っていない人はそんなに急いでスマホに買い換える(スマホプランに契約をアップグレードする)こともしないだろうから、「既存のフィーチャーフォンをスマホに買い換えさせよう」というキャリアの思惑は、これからは過去2年間の急増時代に比べると、増え方が鈍くなる、ということです。
したがって、キャリアがこれからも過去2年間の成長率を維持したければ、自社内の加入者にスマホへのアップグレードをプロモーションするだけでは足りず、他社のスマホ加入者を自社へ引き込む努力が必要になってきて、キャリア間の加入者奪い合い競争が激しくなる、とこの記事は予想しています。

スマホ契約の販売数増が鈍ることにより、各キャリアは今後タブレットなどの通信端末の販売を強化したり、MVNOへの卸サービス提供条件を緩和したり、T-Mobile(GoSmart)やAT&T(Aio Wireless)が始めたように自社でプリペイド・プランドを増やしたり、という新しい企画も必要になってくるであろう、とこの記事は結んでいます。

アメリカの携帯業界の激しい変化を感じる3つの記事でした。



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