プラグイン・ハイブリッド車(PHV)プリウスに乗っています。(スマートグリッド・プロジェクト)
筆者が住んでいる市(人口約10万人)は、2009年に世界で初めて全市的にスマートグリッドを完備し、いくつかのスマートグリッド試験プロジェクトが行われています。
当市のスマートグリッド・プロジェクトに関しては技術的問題だけではなく、その後政治的問題も表面化し、今後の方向性は雲行き怪しくなってきましたが、それに関しては説明し始めると長くなるので、やめます。
ともかく、2009年から始まった当市内でのスマートグリッド・プロジェクトの中で、トヨタが当時試験車として製作していた、家庭用電源で充電できるプラグイン・ハイブリッド仕様のプリウスをこのスマートグリッド・プロジェクトのために2010年3月に10台貸与し、住民に一定期間試乗してもらい、その間の家庭電源への負荷インパクトや車の利用パターンを調査しよう、というサブプロジェクトがあります。
2011年11月初めに筆者の家にも手紙と電話があり、筆者もそのモニター候補として選ばれている、ということだったので、喜んでこのプロジェクトに参加することにしました。参考までに、モニター総人数は約140人で、それぞれの人が9週間ずつプラグイン・プリウスを使用します。我が家はモニター108番目だそうです。
試験車は、基本的には2010年モデルのハイブリッド車プリウスを、家庭用電源に接続できるように車体前方にコンセントを付けたものになっています。
ちなみに、このプラグイン・ハイブリッド車(Plug-in Hybrid=PHV)のプリウスの商用リリース版は、2012年モデルが2012年3月に出荷開始されることになっており、アメリカではすでに11-12月ころから予約受付が始まっているようです。
プラグイン・ハイブリッド車プリウスの試用期間は9週間。その間、我が家のガレージ内のコンセントには写真のような「携帯電話の電波で電源使用状況を5分毎にサーバーに送信する通信装置と、その通信装置に制御されたLAN(ネットワーク)接続の電源装置が装備されます。
通信装置はSierra Wireless社製AirLink Raven XEという、イーサネットから2G(GSM)および3G(W-CDMA HSUPA/CDMA2000 EVDO Rev. A)に変換するゲートウェイ(LAN⇔3G モデム)を使用しています。インストールしていったエンジニアの説明だと、遠隔地の油田のポンプの制御なんかにも使われている通信装置だそうです。
1台$474くらいで販売されている装置のようですね。
AirLink Raven XE by Sierra Wireless
電源装置の方は「watts up?」社のIP電源コンセントで、市販$235.95で、電源のオン・オフをネットワーク上の他の装置から制御できるだけでなく、その装置のコンセントに繋がれた機器の消費電力・電流・電圧などを定期的に測定し、それを送信できる装置です。データセンターやビル内の電源使用状況のモニター、フィールド(外)の電源使用モニターに使えますね。
Watts up? .Net
プリウスの充電の方法は・・・
標準装備の電源ケーブルを、
交流電源に差し込んで、・・・
(ここではスマートグリッド・テストプロジェクトのため、「watts up?」メーターを経由しているが、普通であれば直接、壁のコンセントに差し込むだけ。)
反対側を、・・・
プリウスの車体のコンセントに差し込むだけ。
空のバッテリーを充電するには、約3時間かかります。
また、その間の使用電流は12アンペア(12A、約1400W)だそうで、「同じ回路に他の高電流電気製品が繋がっていて、同時に稼動すると、ブレーカーが落ちるよ」と言われました。
アメリカだとガレージには予備の冷蔵庫を持っている家庭が多く、冷蔵庫内の温度が上がってそれが稼動すると、問題らしいです。
幸い、今は冬で、冷蔵庫の電源がオンになることも少ないだろうから、これまでのモニター10日間ではブレーカーが落ちたことはありません。
また、自宅内で電力使用の少ない深夜の間にしかプリウスの充電が出来ないよう、「watts up?」メーターをウェブサイトからプログラムして、午後10時から午前6時の間だけコンセントがオンになるようにしています。
したがって、午後8時ころ外出から帰宅して、今日最後のプリウス使用のあと、プリウス充電のために電源ケーブルをプリウスに繋いでも、実際に充電されるのは午後10時以降で、早朝には充電が済んでいる・・・という具合です。
電源ケーブルが繋がっている間は安全装置が働いて、プリウスは発進しないようになっているらしいです。(実際に試してみてはいません。)
したがって、充電が済んだら、プリウスからケーブルを外しておきます。
電源ケーブルは標準装備の道具袋に入れておいて、旅行のときは宿泊先の電源コンセントに繋いで充電もできます。
1回の充電でバッテリーだけで移動できる距離は、約14.4マイル(23キロ)だそうで、思ったより少なくて驚いています。
アメリカみたいな広い土地で、これで、何の役に立つのでしょうか?
通勤なんかにこんなハイブリッドを使っても、あまり環境問題改善には影響無さそうですね。
近所へ買い物とか、簡単な「お遣い」とかに行くには、近場で排気ガスをバラ巻いて走らなくても良いから、メリットはあるのかもしれませんが。
もちろんハイブリッド車なので、バッテリーが減っても、また、パワーの必要な走行にはガソリンでエンジンが回転するので、走っている間に途中でバッテリーが無くなっって止まってしまうことは無いのですが、それにしても、「環境のために純電気自動車が実用化されるのは、まだまだ先だなぁ・・・」と実感しました。
なお、筆者は、この機会に初めてプリウスに乗りました。
住んでいるところは標高の高いところ(海抜1600メートル)で、冬は時々雪も降り、大陸性気候のために日が暮れると冬の気温は下がって道路が凍結することがあるため(そんなに頻繁ではないですが・・・)、通常は雪道・凍結道路でも滑りの少ない全輪駆動車・四輪駆動車(スバル)を運転しています。
■充電バッテリーの走行効率(燃費=1マイルあたりの電力コスト)
ワット(W) = ボルト(V) x アンペア(A)
から、
3時間充電のワット数 = 120V x 12A x 3時間(h)= 4320Wh = 4.32kWh
当市の1kWh当りの電気料金が$0.0953(諸税込み)なので、バッテリー充電「満タン」の費用は$0.41ですね。
$0.41で14.4マイル走行と言うことは、1マイル(1.6km)当たり約$0.0285。
ガソリン走行の場合は、ハイブリッドモードで市街地で1ガロン(3.8リッター)当り40マイル程度だから、本日の1ガロン・レギュラー・ガソリンの価格$3.20を基にすると、1マイル(1.6km)当たり約$0.08。
ほう、電気で走ったほうが、ガソリンで走るよりも、約2.8分の一になって、安いのか・・・・
※ 電気料金やガソリン代は、地域によって違います。筆者が住んでいる地域は、アメリカでも比較的電気代の安い地域です。
■「watts up?」メーター(電源装置)のタイマーと使用量モニター
以下は車の観点からと言うよりは、ガジェット的観点からですが・・・
「watts up?」ネットワークバージョン(.net)コンセントは、電源がオン/オフする時間帯を外部からプログラムすることが出来ます。
「watts up?」ウェブサイトにアクセスし、UserNameとPasswordを入力し、「Submit」ボタンをクリックしてログインし、
Watts up? ホームページ
「Manage Rules」をトップメニューでクリックし、
「Rule」として、「電源オンの時間帯」または「電源オフの時間帯」を作成し、「enabled」をチェックし、「Save Changes」をクリックすると、
その「Rule」が携帯電波を通して「watts up?」電源装置に送信され、設定されます。
「Rule」は5つまで作成できるので、一日に複数時間帯の「電源オンの時間帯」を作成することが出来ます。
電源使用状態は5分毎の間隔でリアルタイムに「日時・ワット数・電圧・電流・ワット時」などが表示でき、
グラフでの表示も出来、
詳細な電力使用量をモニターしたければ、CSVファイルでダウンロードすることも出来ます。
画面左下には、選択期間内の電力使用料金も金額で表示できます。(1キロワット時あたりの単価は、事前に自分で入力しておきます。)
■ハイブリッド・プリウスの発進とダッシュボード計器
運転は、バッテリーに電気残量がある限り電気を優先する「Eco」モードと、パワーを優先する「Power」モードがボタンスイッチで切り替えられる用になっています。
これまで2週間は「Eco」モード中心に運転していました。
最初は「電気自動車だから、加速のパワーが少ないだろう。」という先入観があり、アクセルの踏み方を緩くして運転していましたが、そのような先入観は持たずに、普通にペダルを押したほうが良いと最近は実感しています。
街中で(低速で)走ると、交差点の信号で止まったときは、(当たり前だけど)完全にモーターがストップするようで、不思議な感じです。
その後発信するときには普通に発信するので、それも不思議です。
高速では電気ではパワー不足のためエンジンが当然ある程度回るのですが、ガソリンエンジン始動への切り替えがまったく気が付かないほどスムースに移行され、初めてハイブリッド車に乗るものとしては、その点が驚きでした。
また、高速道路でも時速75マイル(120キロ)の走行は、余裕を持った走行で、「ハイブリッド車はパワーが無い」という先入観は払拭されました。(もちろん、この高速走行時にはガソリンを消費しています。)
運転中はダッシュボードのゲージで、現在、バッテリーからの電気で走っているのか、ガソリンエンジンが回転しているのかがわかり、電気の方向もわかります。
バッテリーの電気が消費されている間はバッテリーから矢印が動き、エンジン回転時にその余力をバッテリー充電に回しているときはバッテリーに矢印が動きます。
ただし、ガソリンエンジンで充電されたバッテリーは、ある程度電気が溜まると、すぐにモーター回転に利用されるようで、いったんバッテリー残量が路上で底をつくと、ガソリンエンジンの回転でバッテリーが大きく充電されることはありません。
したがって、このようなプラグイン・ハイブリッド車を実用的に日常使用するためには、自宅以外でも、乗って行った目的地で30分~3時間程度の駐車中に、その場で充電出来る社会的な仕組み(エコ・システム)が無いと、フル活用が出来ないと思いました。
しかも、そんなに数分~10分程度で意味のある充電が出来るわけではないので、たとえば、プラグイン・ハイブリッド車専用の駐車場を作り、その駐車スポット一つ一つにコンセントを付けて置かなければなりません。
そんなことが、社会として可能なんでしょうかね?
日本でも2012年からプラグイン・ハイブリッド車の正式販売が始まり、自治体レベルで充電ステーションを整備する運動もあるようですが、今のガソリン・スタンドのように道端に充電スタンドを作っても意味が無いですね。
ひとが最低30分から2~3時間駐車場として使うようなスーパーとか病院とか駅前とかの駐車場に、十分な数のプラグインハイブリッド車用の駐車スペースとコンセントを設置しなければならない・・・ということですが、簡単に出来るのでしょうか、心配です。
ハンドルに付いている「Display」ボタンを押していくと、ダッシュボードのゲージは変わり、距離計リセット以来のこれまでの走行距離間の電気使用量とハイブリッド使用量の割合が表示されます。この例では、過去走行距離58.9マイル(約94キロ)のうち、電気での走行が47%と表示されています。(この写真を撮った時点では、市内利用ばかりで遠出はしていなかった。)
また、1分毎または5分毎のガソリン使用量と再生可能電気発電量も、ヒストグラムで表示できます。(駐車中に写真を撮ったため、ヒストグラムは出ていない。)
次は、、距離計リセット以来の走行距離・燃費と平均速度が下に出て、走行中は横棒で現在の電気・ガソリン使用率が表示されます。
この表示だと、1ガロン(3.8リットル)当り53.5マイルの燃費になっていますから、表面的には燃費は良いものの、その間に2回(約35マイル分)は充電していますから、それも考慮しないといけません。つまり、これまでの走行距離58.9マイルのうち約35マイルは電気で走っていて、残り約24マイルをガソリンで走っていることになります。そして、この間のガソリン消費量が58.9/53.5=1.1ガロンですから、ガソリンだけの燃費計算だと24/1.1=21.8マイル/ガロンと言うことになりますから、ガソリン車の部分だけ取り上げたら、大したことはありませんね。
最後のダッシュボード・メーターは、「トリップ」(距離計リセット)毎の燃費表示です。筆者の前に使用した人たちの燃費を見ても、大体ガロン当り55~60マイル(リッター当り23~25キロ)程度の燃費ですね。
注:これを書いた後、走行開始時にバッテリー残量ほぼゼロの状態で走ってみましたが、その場合(ハイブリッドモード)で市内走行の場合は燃費が1ガロン当り40マイル(リッター当り約17キロ)と表示されました。
ガソリンエンジンで駆動している際にも、ガソリンエンジンの余力や慣性で発電する電気はバッテリーに貯められ、ある程度貯まるとそれを走行に再利用しています。
■感想
ハイブリッド車に対する先入観が払拭できたことと、家庭でのハイブリッド車充電が体験できたことは、大きな経験です。
筆者の試乗は2012年2月9日まで続きます。
これまでの約2週間の経験では、とりあえずすぐにハイブリッド車に乗り換えるほど考えが変わったわけではありませんが、市内の買い物や用事にはPHV車も向いているな・・・とは思いました。
でも、市内専用ならもっと安くて小型の2席小型車でも良いと思います。
と言って、一般消費者は市内専用と遠距離専用と何台も持つほど経済的にもスペース(車庫)的にも余裕があるわけでは無いので、「市内優先・遠距離用としても可能」モデルとなると、あとは価格の問題になるのでしょう。
また、電源コンセントが付いていない車庫しかなかったり、路上駐車を強いられる人は、プラグイン・ハイブリッドは持っても意味が無いですね・・・当たり前だけど・・・
PHV車はバッテリーが車の後部(荷物収納場所)の下に入っているので、荷物を置くスペースが少ない(荷台が高いので、結果的に天井との高さが狭い)のも、荷物を多く運ぶ人には欠点ですね。
ちなみに、本来スペア・タイヤが入っている部分にバッテリーが入っているので、PHV車はスペア・タイヤを積んでいません。したがっって走行中にパンクした場合は、タイヤ交換は出来ず、穴を内部から塞ぐスプレイ式「緊急パンク修理剤」をタイヤの空気注入口から流し込むんだそうです。
荷台の高さが低いことは後部窓ガラスのサイズにも影響しており、運転席からバックミラーを通して見る後ろの視野が狭いのも、ひとつの欠点だと、個人的には思っています。
あと7週間の試乗でまた新しいことが発見できたら、追記します。