「同時通訳も、こんな準備の仕方があるのか」と自分なりに納得した件。


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本来、筆者の通訳業はコンピュータ・通信関係が主で、昔から最先端の話題ばかりで、NDA(秘密保持契約)の必要な話が出てくることが多いです。

問題はどんな話が出てくるのか、依頼主のほうが前もって教えてくれない・・・というか、「教えなくても、(通訳ってみんな)出来るだろう」と思っている節がありましたて。そりゃあ自慢するわけではないけど、筆者はその分野で仕事していたから出来るんであって、普通の文系通訳では無理ですよ。
シリコンバレーには、著名IT企業のEBC(Executive Briefing Center)にお抱えで呼ばれる通訳さんも多く、そういう人たちは、同じ話題の内容を何度も繰り返して、EBCへ訪問してくる日本企業のお客さんに話しているから、自然に空でも通訳できるくらいになる・・・んじゃないかと、推測。

これを始めたころは筆者も通訳をするつもりで依頼を受けたのではなく、「えっ、自分が訪問してみたい企業に、行けるの?」と、喜んで引き受けました。バブルのころは日本企業の米国訪問は2週間位の期間、あっちこっちへ移動しながら訪問していましたね。そのうち10日、1週間と縮まりましたけどね・・・お蔭様でアメリカとカナダの主要都市と、主要ではない都市(たとえば、Walmartの本社のある、人口3万人ほどのBentonville、とか。)、まあ、50都市以上には訪問できました。
今は「現地調達」が殆どで、出張の機会はずいぶん減りましたね。

Anyway、筆者の通訳できる言語は英語と日本語とIT/通信言語でして、昔は「コンピュータの言葉って、別だよね。」と言われながら、頼まれていましたが。
今は、IT関連のマニュアル翻訳をする人が多いので、「自分はコンピュータの分野で、通訳が出来る」と思っている人も増えているようです。

最初に書いたように、筆者の場合は「業務システムと通信/ネット関係」で20年以上実務をやっていたので、コンシューマー系ではないんです。だから、そのあたりの最先端の通訳でも、苦ではないです。
そういえば今だから言えますが、最近KDDI auのMVNOを始めた某社さんは、1年半前から加入者プロビジョニング・システムを導入検討するのに、某大ネットワーク機器会社の中の、あるソフト部門のデンバー開発拠点に2度ほど訪問していました。

先日は光ファイバー空中配線関係の企業の通訳を3時間ほどやって、「さあ、終わった。帰ろう。」と車を離れようとしたら、名詞を要求されて、「いや、通訳が違うと、こうも違うというのが初めて分かった。他の人だと、自分が言っていることが、通訳を通して相手にわかってもらえているのかが、分からなくなることがある。今日は、そんなことは無かった。」とか言われて、自分にとっても新鮮だった。・・・というのも、今までと同じく普通にやっていたからなんですけど・・・そんなに他の通訳って・・・???

多分、自分は理系なので、理系の話題に関しては、「自分が相手の言うことを理解して、それを言い換えて訳をする。」というスタイルを25年以上やっているから、「自分が分からないことは、自分が分かるように、相手に質問する」スタイル(あまりしつこく質問すると、「通訳のくせに、何やっているんだ」と思われるので、その辺は加減も必要。)なので、文系通訳の「分からなくても、文字変換だけで通訳する」と比べると分かりやすいんでしょうね。

しかし、この自分の癖が「法廷通訳」や「医療通訳」では仇になるんですよね。「法廷通訳」や「医療通訳」では、「元の言葉を修正してはいけない、省略してはいけない、追加してはいけない」と「通訳の倫理規定」に定義されているので、「聞き返す」と通訳としての信用を無くします。まあ、「聞き返す」ときの「聞き返し方」の言い回しにはちゃんと標準化された規則があって、その文型を使えば良いんですが、それでも「聞き返す」頻度が多くなると、通訳は信用を無くします。筆者も、朝9時から夕方5時まで(何度か休憩は挟みながら・・・)一人で、あるSEC裁判の証人の宣誓証言(deposition)の通訳をやったときには、最後の2時間くらいは、連邦検事がいらいらしていたのが分かっていました。でも、あれは、証人の弁護士側の証人コーチングが事前にされていなかったのも問題、とも思うんですが。

でも、こういう宣誓証言(証人喚問)の休憩時間などに弁護士同士が話している雑話を聞いていると、裁判や宣誓証言の時の通訳ってのは質の悪いのが多いそうです。「通訳の質が悪かったので、あの裁判はやり直しになった」という話を良く聞くと、「法廷通訳もそんなに神経質になることはないのかな・・・」と思ってしまいます。

話は標題の件に戻り、2ヶ月ほど前ですが、ある日系会社の事業部長にあたる人が現地の米国法人を訪問し、「前年業績と、今年の目標」みたいなのを日本語でスピーチするので、「同時通訳をして欲しい」と頼まれました。現地社員は500人ほど居るんだそうで、その人たちが全員ヘッドセットを付けて、同時通訳を聞くんだそうで。

同時通訳(ウィスパー通訳を含む)をとしては頼まれるのはこれが4回目くらいで、日数としても8~9日はやっているし、これまでの経緯として、地元で他の人に同時通訳を頼んでも、皆、断るのは分かっていたので、まあ、引き受けたんですが。(自分も、最初の同時通訳依頼は、1回目は断ったが、説得されて仕方なくやった。・・・その割には、英語のシナリオがあった同時通訳だったので、まあまあの出来だったと思う。)

今回のは、シナリオは無いし、「どうすんべぇ」と思いながら過ごしていると、イベントの1週間前くらいに数百メガバイトの資料を送ってきました。パワーポイントの日本語オリジナル資料と、英語に直した資料。ただ、英語版は多少内容も変わっていたり、スライドが追加・削除されていました。
で、バイト数が大きかった理由は、日本の本社で事業部長が発表したときのビデオが一緒に入っていたんです。40分長くらいでしたかね。プラス、もう一人の人が40分くらい別に話していましたが、後半の発表は今回、米国現地法人では無いようです。

それを一回観て、日本語と英語のパワーポイントのスライドをチェックすると、大体8割ぐらいは同じ内容。

ってことは、この日本での発表内容を事前に頭に入れておけば、同時通訳も楽であろう、と思いました。
とは言え、日本語で話しているビデオを2回くらい観ても、頭に入らない。
あ、そうそう、今回の同時通訳は日本語を聞いて、英語に通訳するやつ。そもそも同時通訳というのは、自分が話す言葉をネイティブ言語にしている人がやるべきで、これも変則(反対)なんですよね。
だから、余計に英語で頭に入らない。

これは、「一度、ビデオの日本語会話を書き取り(テープ起こし)、英語に翻訳して、それを理解しないと、だめだ」と思い、発表会前日の朝になってまずはWAVファイルをMP3に変換し、MP3を東芝の無料クラウド「書き起こし」サイトにアップし、それをツールとして使って編集しながら、まずは5時間くらいで40分のスピーチを日本語書き起こし。後で考えると、今回の目的では正確なテープ起こしである必要は無く、「あの」とか「えーと」とかはどんどんスキップして、もう少し所要時間を短くするべきだった。
【東芝】ToScribe 音声書き起こしクラウドエディタ

そこで辞書検索の時間を減らすために、出来上がった日本語をGoogle Translateで一度機械翻訳にかけ、その後、手直し。(ほんとに、日英/英日のGoogle Translateは、もっと精度上がらないのかね!)
これも、夕食の時間を入れながら、6時間くらいで翻訳完成。
既に23時くらいになっており、これ以上起きていると翌日の朝早い(8時半現場到着、9時開始)仕事中に頭脳が健全に働かない可能性があるので、そこで寝る。
翌朝、翻訳完成後の出来上がった英文を、二度、声を出して読む。

・・・という下準備を経たら、うん、自分でもその日の同時通訳は良く出来たと思う。
なんたって、スピーカーが大体何を言いたいかを事前に分かっている・・・ということは、心強い。

それにしても、40分の同時通訳を2人で組んでやって、ミニマム2時間分の通訳料金をチャージして、日英のパワポのスライド整理に1日、パワポのスライドの理解に1日、テープ起こしと翻訳に12時間。
割に合わない仕事だと思った。

そもそも、ニューヨークでは1日8時間の拘束時間(昼食時間1時間を含む。)で$1000以上(1時間$130)チャージしている人が居るのに、ここコロラド州では
● 裁判所(州)が通訳に支払うコントラクター料金が1時間$40、1日ミニマム2時間。
● プライベート(弁護士やエージェンシー等に雇われた場合)でも、1時間$50が最高。
● 医療通訳は、1時間$35(エージェント経由)・・・患者さんが手術中は、待合室で1時間とかじっと待機していないといけない。その間、何をしていても良いのだが・・・
まあ、生活費もこっちのほうが低いかもしれないけど、なんか、お金のための仕事ではないですね。・・・と、愚痴が出ます。

「誰かのために役に立った」という満足感が、原動力ですかね。



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