アメリカで医療通訳士として活動するためのステップ・バイ・ステップ手順


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1ヶ月ほど前にアメリカでの医療通訳士に関してまとめてみました。
アメリカの医療通訳士の資格と、その仕事 – 2015年3月29日

今日は、アメリカで医療通訳士として活動するために必要な手順を、ステップ・バイ・ステップで書きます。

1.高卒以上の学歴があること

まあ、医療通訳士を目指す殆どの通訳者はこの条件を満たしていると思いますので、問題は無いと思います。
が、この条件は以下に書く資格を受けるための前提(必須)条件でもありますので、書いておきます。

2.英語を習得していることを証明できること

特に英語(英会話、通訳)の学校に別途行く必要は無く、例えば、「アメリカの大学や大学院などで(何の専攻でも良いから)学位を取得した」、なども「英語の授業に参加して、理解できている」ということで、英語の習得済みと認定されます。

3.英語と、自国語(またはその他の言語)での通訳能力が(既に)あること

以下に記す医療通訳研修コースは通訳能力をゼロから教えるものではないため、医療通訳士として更なる資格を取得して医療通訳の分野で活動するには、既に通訳能力があって、通訳として数年の経験があることが、望ましいです。

4.合計40時間の医療通訳研修を受講する

アメリカで医療通訳研修として一般に知られているのは、Bridging The Gapという5日間、合計40時間の研修プログラムがあります。
各州の通訳エージェントがライセンスを受けてこの研修を年数回、定期的に行っています。
ネットで「Bridging The Gap medical interpreter training」や「Bridging The Gap interpreter training」をキーワードで検索し、地元の研修主催会社を探して、受講してください。

(1)期間は5日間、合計40時間
(2)参加費用は$500-600。
(3)別途、トレーニング参加前に英語と通訳言語(通常は、自国語)の2ヶ国語の「言語能力試験」を受ける必要があります。これは、トレーニング参加の前提条件として必須です。試験はトレーニング参加申し込み後、参加数日前までに受けます。(トレーニング参加前に結果が主催者に送られている必要があります。)試験は電話で受けられ、英語と、自国語と別々のセッション、合計で約30~40分掛かります。「言語能力試験」はどの査定会社で受けるかによって変わってきますが、約$100かかります。
(4)2-3年前からはBridging The Gap最終日に1時間/50問(殆どが4択か5択問題)の試験が実施され、これに70%以上の正解率で合格しないと、研修終了とは認められません。

講習内容は、
(1)医療通訳士の役割
(2)職業倫理
(3)医療通訳士として知っておくべき法律
(4)主な医学用語と、覚え方
など。クラスメートとの演習も毎日あります。

Bridging The Gapコースを受講する代わりに、
(1)他の医療通訳コースや、病院はコミュニティカレッジなどで提供している医療従事者コース(対象が医療技術者向けで、通訳に限らない)(30時間以上、40時間まで)
(2)通訳関連のセミナーや大会に出席する(10時間まで許可)
を組み合わせて40時間を履修しても良いのですが、お金は掛かるもののBridging The Gapコースに参加すれば、5日間の短期間で40時間の条件を満たせるので、楽です。

追記(2015年6月12日):
TransInterpreting.comが、オンラインでの40時間医療通訳研修を行っています。住んでいる近くで医療通訳の研修が見つからない人、または、日中5日間医療通訳研修に参加できない理由のある人は、考慮に値します。受講料もオンサイト受講料の半分程度(現在、$350)です。週4日(月曜日から木曜日まで)夜2時間ずつ、5週間で修了です。
【TransInterpreting.com】Healthcare Interpreting Courses

5.CCHIまたはNBCMI(または両方)の資格試験に合格する

CCHIはCertification Commission for Healthcare Interpretersの略、NBCMIはNational Board of Certification for Medical Interpretersの略です。
この2つの組織は数年前からそれぞれ独立に、全米レベルの民間の医療通訳士認定試験を開発してきて、ようやくアメリカの医療サービス提供分野で認識され始めています。

現在はこの2つの資格に合格せずとも、4.のBridging The Gap修了のみで、医療通訳士として活動開始できます。

ただし、CCHIもNBCMIも徐々に全米の医療サービス提供施設(病院)で認知されてきている資格であり、CCHIの理事長の話では、おそらく今から3年後にはどちらかの資格が無いと医療通訳士として活動することは難しいだろう、と言うことです。また、カリフォルニア州を初めとして、医療通訳者には資格を要求する州の法律を採決しようとしている州もあります。したがって、出来れば今から数年以内には取得しておきたい資格です。

スペイン語、アラビア語、中国語(マンダリン)は口答試験も合格しないと「資格を取得した」とはみなされませんが、運が良いことに今のところ日本語の場合には口答試験がありません。したがって、コンピューターベースのマルチプルチョイス(CCHIは2時間で100問)に合格すれば、資格が取得できます。(coreCHI資格)

なお、これからBridging The Gapのコースを履修する人は、履修後できるだけ早く、履修内容の記憶がまだ新鮮なうちにこれらの試験を受けることを薦めます。

CCHI資格の場合は初期申請料金が$35、試験は申請開始から6ヶ月以内に受ければ良く(つまり、準備期間が6ヶ月ある)、1回$175。試験は5つの知識分野でそれぞれ最低正解数が無ければならず、補正点数300点~600点(全門正解した場合)で、合格点が450点。合格しなかった場合には3ヶ月ごとに試験を再受験できます。(再受験ごとに試験料$175は課金されます。)
試験は、TOEFL iBTなどの試験を受けられるテストセンター(全米多数)で受けられます。

なお、州(特にカリフォルニア州は厳しい)によっては、日本語でも別途口答試験を要求する場合もあるようですから、ご自分の活動する州の規定をお調べください。

現在、全米でCCHIの試験に合格した日本語通訳者はまだ6州12名だけです。つまり、「多くの州ではこれらの資格を持った日本人は、まだ誰も居ない」ということになります。

6.医療通訳の仕事(通訳エージェント)を探す

さて、「BTG(Bridging The Gap)の研修も受け、資格も取った」として、どうやって医療通訳の仕事を探すのでしょうか?
ただ黙って待っていても、医療通訳の仕事は降って来ません。
※ スペイン語通訳は毎日必要とするので、病院によってはフルタイムのスペイン語通訳を雇う病院もあります。

それは、前のブログ記事にも書きましたが、
アメリカの医療通訳士の資格と、その仕事 – 2015年3月29日
(1)医療通訳を雇う場合の殆どのケースは、患者ではなく、病院やドクター・オフィス。通訳経費は、病院やドクター・オフィスから支払われる。
(2)ところが、各病院やドクター・オフィスは20ヶ国語以上、場合によっては100ヶ国語以上の通訳を一人ひとりの患者のニーズに応じて手配・管理するのは大変なので、外部の通訳エージェントに、通訳者手配や、資格のある通訳者探しを丸投げしている。
(3)しかも、病院やドクター・オフィスによっては出来るだけ通訳経費を抑えるために、電話通訳で済ませられる場合には電話通訳で済ませている。
なので、いくら研修を済ませて資格を取得したからと言って、その後に何も行動しなければ、仕事は来ません。

また、患者さんをターゲットにした営業やマーケティングも、効果は少ないです。なぜならば、患者さんが通訳を雇ったら患者さんが通訳料を支払わなければなりません。病院が通訳を雇ったら、病院はそれを患者さんに直接課金することは禁止されています。

よって、自分が医療通訳活動したい病院にどの通訳エージェントが出入りしているのかを調べ、その通訳エージェントに履歴書(Resume)を送って登録するのが、普通です。(もちろん、自分で通訳エージェント業を始めて、通訳エージェントとして病院に営業に行っても良いのですが...)

私の知っている病院では、
(1)電話通訳はxx社、オンサイト通訳はzz社、
とそれぞれ一社ずつに決めているところもあります。また、もっと大きな病院になると、
(2)出入りの通訳エージェントは3社に決めている病院もありました。(その3社全部に登録している私は、1社から派遣されて行ったら、通訳者控え室に3社のバッジケースがあって、笑ってしまった。)

というわけで、頑張って出来るだけ多くの通訳エージェントに履歴書(Resume)を送りまくります。

7.医療通訳エージェントと正式契約

医療通訳派遣を行っている通訳エージェントから返事が来て、実際に契約する際には、いろいろな書類が要求されます。特に医療通訳の場合には、以下のような書類(または手続き)が要求されます。
(1)履歴書、Bridging The Gapの修了書、既に取得済みであればCCHIまたはNBCMIの資格認定書
(2)ID、ソーシャルセキュリティーカード、グリーンカード、など。
(3)バックグラウンド・レポート(犯罪歴調査報告書、ソーシャルセキュリティ番号Validation〔他人のソーシャルセキュリティ番号を使っていない証明〕、など)
(4)予防接種履歴
私のように成人になってから渡米した外国人はアメリカの義務教育の学校には通っていないので、正式な「予防接種履歴」はありません。
その場合には、医療施設(ドクターズ・オフィス)で主要な予防接種対応の疫病の陽性・陰性反応テストをしてくれるか、または、種類によっては再度予防接種をしてくれます。
それによってこの条件を満たすことが出来るだけでなく、自分の「予防接種履歴」を作ることが出来ます。
(5)インフルエンザ予防接種済み記録(毎年)
(6)ドラッグ/アルコール テスト
(7)HIPAA(医療関連個人情報保護に関する法律)や病院内二次感染予防知識に関する小テスト、または、教育(ビデオ学習)
(8)自家用車の保険に加入していることの証明(自分の車で派遣された病院へ行ったときに事故にあっても、通訳エージェントは払わないゾ・・・と言い訳できるように。)
(9)出入りする病院によっては、別途、その病院に出入りする「顔写真付きスタッフ・バッジ(病院ID)」を取得するために他の要求があります。
通訳エージェントによっては、上記項目の何項かは省略されます。

なお、電話医療通訳エージェントの場合には、
(1)履歴書、Bridging The Gapの修了書、既に取得済みであればCCHIまたはNBCMIの資格認定書
(2)ID、ソーシャルセキュリティーカード(または番号のみ)、など。
(3)電話での医療通訳能力口答試験
(4)HIPAA(医療関連個人情報保護に関する法律)に関する小テス
が要求されます。

8.医療通訳エージェントから仕事の依頼があるのを待ちます

はい、これであとは病院から医療通訳エージェントに日本語通訳の依頼があり、医療通訳エージェントから自分に連絡があるのを、待ちます。

私が住んでいるコロラド州デンバー周辺では、オンサイト医療通訳依頼は月に1-5件あれば良いです。しかも、オンサイトの医療通訳依頼の場合には、自宅から病院まで往復しなければなりません。余程遠くの病院へ出張する以外は、交通費は出ないことが多いです。しかも、医療通訳の場合にはミニマム通訳料は1時間(2時間や4時間ではない)で、時給も通訳エージェントから医療通訳者に支払われる人件費は$35-50。つまり、医療通訳だけ生活していこう、なんて不可能です。

※ 参考までに、電話医療通訳の通訳者が貰う通訳料は、1分当たりいくら。私が今やっているところは、1分$0.50です。

まあ、医療通訳と法廷通訳の資格は「トータル通訳者」として自分を良く見せるため(つまり、「箔をつける」ため)の資格であって、それだけで生活するための資格ではないと考えてください。

9.医療通訳士資格の継続

Bridgint The Gap研修は一回受講すれば追加受講は生涯不要ですが、CCHIおよびNBCMIの資格は定期的に更新しなければ抹消されます。

たとえば、CCHIの場合の更新条件は
(1)4年ごとに更新料$300(または、2年ごとに分割で$150)
(2)医療通訳を4年間で40時間以上提供したことの証明(最初の2年で20時間以上、プラス、後半の2年で20時間以上)
(3)医療通訳関連の生涯教育(Continuing Education)を4年間で32時間以上受講したことの証明(最初の2年で16時間以上、プラス、後半の2年で16時間以上)
つまり、高額($35+$175)の申請料・受験料を払ってCCHIの資格を取得しても、それを使って医療通訳活動を毎年しなかったら、無駄になる・・・と言うことです。

上記条件を満たせずに資格を更新できず、資格を抹消された場合には、再度試験を受けることによって資格を獲得することが出来ます。



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