ロンドン市が、市内のWiFiアクセスポイントでのスマホのMACアドレスデータ収集に、中止命令。


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このサイトでも何度かWiFiアクセスポイントを使ったスマートフォンの屋内位置情報やマーケティングの傾向を、書いてきました。
小売店における買い物客の屋内位置情報追跡システム活用例、現状(2013年前半) – 2013年7月18日
マイアミ子供病院が屋内位置情報システムで、患者や家族が病院内の移動に役立つiPhoneアプリを提供開始。 – 2013年4月5日
インドアGPS(屋内位置情報)システムは、どんなアプリに役立つのか? – 2013年3月28日

また、今月(2013年8月)初めからGoogleが米国内のStarbucksのWiFi提供をAT&Tに変わって行うのも、サンフランシスコ市内の公園で無料WiFiを提供するのも、すべて、WiFiホットスポットから「見える」周囲のスマートフォンをターゲットにした広告収入を上げるためであることも、推測されています。
アメリカStarbucksの無料WiFiが、attwifiからGoogle Starbucksに順次変わります。 – 2013年8月8日

※ WiFiホットスポットは、その電波の伝達周囲内(通常基準では、屋内で数十メートルから、屋外で障害物の無い直線距離では100メートル。)であれば、たとえそのWiFi信号(SSID)に接続(ログイン)していなくとも、その範囲内のWiFi機器のMACアドレスを検知する事が出来ます。それを防ぐには、機器の電源をオフにしておくか、WiFiモードをオフにしておくしかありません。

実は、3G(セルラー通信)でも同じように、携帯(スマホ)の電源をオンにしている限り、携帯会社はそのスマホのシリアル番号(IMEI番号、MEID番号)とGPS位置と、その時刻を収集することが出来ます。その活用例としては、ゼンリンデータコムが東日本大地震当日の関東圏の「人(スマホ)の帰宅の動き」のアニメーションがあります。
このアニメーションでは、地震発生とともに電車が止まったため、人(スマホ)の移動速度が遅くなり、徒歩で帰宅する人が増えたことがわかります。
【YouTube】混雑統計データ(R)による東日本大震災当日の人々の流動状況

地震発生前
電車が動いており、幹線道路には車が走る
地震発生後
電車や高速道路が止まった
このあと深夜まで、歩いて自宅へ帰る人(スマホ)の動きが、分かる

 

同様な人(スマホ)位置情報に基づいた混雑状況と人の流れの把握は、WiFiを使って建物の中でもデンマークのコペンハーゲン空港、カナダのショッピングセンター、アメリカのフットボール球場などでも既に行われています。3G(セルラー)通信からのGPS位置情報データの取得は、キャリアから情報を入手するまでに時間が掛かるため、リアルタイムでデータを収集できるWiFiを活用する施設が増えてきています。

また、既にアメリカのキャリアは、このような携帯のGPS位置を集約化(aggregation)して、企業やマーケティング会社に販売しているというニュースも、チラホラ見ます。

ユーザーとしては、追跡されている情報はスマートフォンのシリアル番号(3Gの場合にはIMEI番号/MEID番号、WiFiの場合にはMACアドレス)だけであり、個人名などの個人情報とはそのままでは結び付けられず、普通には個人が確定されることはありません。

ただし、そのWiFiアクセスポイントエリアに入る前(あるいは直後)に、そのエリアやショップに特定のアプリを起動し、サインインした場合には、アプリのサーバー側がユーザー名を知ることが出来ます。このログイン情報から、そのログイン名が登録されている個人情報を基に、その人の登録「プレファレンス」に基づき、サーバー側からスマホにプッシュ広告を流して、画面に表示することが出来ます。
たとえば、最近、StarbucksのアプリをiPhoneで起動していて気が付いたのですが、その状態でStarbucksの店の周辺数十メートル以内を通ると、自動的にそのStarbucksの店名がiPhone待ち受け画面に表示され、近くにStarbucks店舗があることを知らせてくれます。
当然、ユーザーとしてはそういうメッセージを見ると、何回に一回は店に寄ってコーヒーを買いたくなりますよね。

こういった位置情報を基にしたリアルタイム広告やマーケティングの可能性として、GPSの活用やWiFiアクセスポイントを使った位置情報の活用が、今、最も注目されている技術の一つです。

ロンドンの街中の歩道に2012年ロンドン・オリンピック前にインストールした100個の「スマートごみ箱」を設置したRenew London社は、この原理に基づいてそのうち12個にWiFiアクセスポイントを内蔵し、約1ヶ月前からゴミ箱周辺を通る人のスマホのMACアドレス情報を収集し始めました。
【Quartz】This recycling bin is following you – 2013年8月8日

しかし、データ収集を開始して1ヶ月も経過しないうちに、また、このQuartzオンライン誌が最初にこのデータ収集をレポートした記事を発表して4日後に、ロンドン市はこの「スマートごみ箱」によるMACアドレス情報の収集を止めるよう、Renew London社に行政命令しました。
【TheVerge】City of London orders Renew to stop tracking citizens with its trash cans – 2013年8月12日


 

Renew London社はこの実験で、多い日で1日10万台、試用期間中に総計100万台以上のスマートフォンのMACアドレスが検知出来て、同じスマートフォン(MACアドレス)が何度同じ場所を通過したかも、情報として収集できた、と話していますが、MACアドレス以外の個人情報は集めていない、と釈明しています。また、今回のような特定の場所でのMACアドレスデータ収集は、ウェブサイトのアクセスログの情報(IPアドレスと、サイト訪問時刻)と同じであり、どのウェブサイトでも行われていることだ、と弁明しています。

同社の実験は、使用した「スマートごみ箱」に装備されているLCDスクリーンに表示する広告を変えたり、通り過ぎる旅行者(スマホ)の速度に合わせて「スマートごみ箱」の画面表示の切り替え速度を変えることが目的(少なくとも、初期目的)でしたが、実際にはそこまで到達しておらず、ゴミ箱周辺を通過するスマホのMACアドレスを3分毎にまとめてサーバーに送っているだけでした。
【Renew】Official Message on Renew Orb from CEO, Kaveh Memari – 2013年8月12日

しかし、秘密のNSA監視プログラムの暴露以来、世界中のインターネット利用者が個人情報漏洩に関して過敏になっている時期にこのような試みを行ったRenew London社の「スマートごみ箱」実験は、その被害に遭ったとも言えます。

昨年秋からのアメリカNordstrom百貨店における「マーチャンダイジングを目的とした、店内WiFiアクセスポイントを利用した、顧客の店内位置情報検知」も、店の入り口に「あなたの店内での位置は、収集されます。」という案内張り紙を置いた為、それに気が付いた顧客の一部に指摘・反対されて、そのプログラムを半年で止めざるを得ませんでした。

が、現実には、空港などの公共施設やフットボール場などで、群衆コントロールなどに使用されているケースは増えていると思われ、顧客への案内通知をせずに店内スマホのMACアドレス情報を収集している大型店舗も増えてきているはずです。

また、リアルタイムにクーポンをスマホに表示するなど、利用者へのメリットのある仕組みを開発することも、可能です。

今回のロンドン市内でのRenew London社の、WiFiアクセスポイントによるスマホMACアドレスデータ収集中止命令が、「より生活が便利になるスマホ活用」の今後の動きに、倫理・規制面においてどのような影響が出てくるか、注目したいと思います。Renew London社のウェブサイトでの声明も、「法律が、今回のようなスマホMACアドレスのデータ収集に対して、まだ整備されていない。」と触れています。

もちろんRenew London社は、中止命令を受けたあと、この情報収集を止めています。

※ 注釈:ロンドン市による今回の中止命令は、Renew London社の「スマートごみ箱」トライアル・プロジェクトのみを対象としたもので、市内全域にわたる「WiFiアクセスポイントを利用した、スマホのMACアドレスデータ収集」を禁止したものではありません。



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