2011年12月のアメリカ携帯業界ニュース


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他で発信している業界ニュースを日本語で再発信しているサイトは、たくさんあります。
そういう中で、同じようなニュースをここで流しても筆者のエネルギーと時間の無駄になるだけなので、ここのサイトでは他の人やサイトが流すであろうニュースは極力取り上げないようにしています。

このサイトのメインのポイントは、「他人の受け売り情報の転載」ではなく、筆者のハンズ・オン体験に基づいた情報です。

しかし、中には現地の業界の情報をナマで知らないと書けない情報もあります。
そのような情報(ニュース)は、時々書いて行きたいと思います。

2011年11月から昨日まで、アメリカの携帯/モバイル通信業界ではいくつかの大事な業界ニュースが発生しています。
それらの関連性を解説しながら、書いていきたいと思います。
 
 

2011年12月19日:AT&TがT-Mobile USAの買収を正式に諦めると発表

AT&TとT-Mobile USA(親会社:ドイツ・テレコムの、100%子会社)は2011年3月20日、T-Mobile USAをAT&Tが買収する形で統合すると発表。その後、公正取引委員会(司法省)とFCC連邦通信委員会で審議が始まったが、どちらも2011年8月頃から合併に反対すると発表。

AT&TのT-Mobile USA買収目的は、第4世代通信網LTEの整備でVerizonに遅れをとっているAT&TがT-Mobile USAを買収することによって、基地局などの資産を即時に入手できることからLTE整備の短期迅速拡大が目的。

逆にT-Mobile USAの親会社ドイツ・テレコムの目的は、アメリカ国内で毎期加入者減の続いている第4位の通信会社T-Mobile USAを持っていても発展性が無いばかりでなく、売却によって得られる現金収入をドイツテレコム自国およびヨーロッパ内でのLTE整備の資金に使えること。
更にT-Mobile USA自体の将来事業計画に、アメリカ国内でのLTE整備計画が存在しないので、他社トップ3社(Verizon、AT&T、Sprint)との差が今後どんどん付いて来るのは目に見えてくること。

・・・でした。

しかし、これまで「一部資産を他社へ手放す」などの妥協案も提案したAT&Tは、司法省とFCCの反対が強いことを感じ、2011年12月19日、公式にT-Mobile USA買収を放棄することを発表しました。

これにより、T-Mobile USAは買収不成立違約金として、AT&Tから30億ドル~40億ドルの資金を受け取り、これらはドイツ・テレコムのLTE整備資金やT-Mobile USAの存続継続の経費に回ります。

また、AT&Tはその使用電波の一部の所有権をT-Mobile USAに譲渡します。
その上で、AT&TとT-Mobile USAは今後7年間、相互電波のローミング使用契約を結びます。(特に、2G GSM周波数帯域でのローミング契約が延長されると思われるが、HSPA+でもローミングが行われる可能性がある。)

今後、AT&Tは他の方法で
●LTEの整備加速
および
●将来的に予想されるLTEの帯域不足
に対処していかなければなりません。

また、T-Mobile USAは依然加入者減が続き、経営的に弱体化している中で、親会社のドイツ・テレコムにはまったく米国事業の整備強化の方針が無いばかりではなく、米国事業から撤退したい意向を明らかにしているので、今後、4G LTE絡みで別の携帯事業会社との合併の話も有得ます。
しかし、アメリカの携帯事業会社の中でAT&T以外は2G/3Gの通信方式が違うため、AT&T以外と統合する場合には異なる通信方式の扱いをどのようにしていくかが課題になります。
既にウォールストリート紙はアメリカ第6の携帯会社であるCricket Wireless(Leap Wireless)との合併の可能性や、LTEでT-Mobile USAと同じAWS周波数帯を使用しているアメリカ第5の携帯会社Metro PCS、そして、AT&Tとの買収の話が持ち上がる前に並行的に交渉中だったアメリカ第3の携帯会Sprintとの合併の可能性も取り上げられています。
 
 

Clear(Clerarwire)とWiMaxの生死

アメリカで唯一WiMax通信方式のインフラを構築して提供しているClear(Clearwire)社は、2011年3月および2011年7月と資金難のために破産(会社更生法適用)の危機に面していましたが、「2011年12月1日に支払う予定の社債の利子分がこのままでは支払えない」と2011年11月18日に発表。このままでは破産(会社更生法適用)に至ると危惧され、Clearの株価は20%以上下がりました。

Clearは携帯会社Sprint、ケーブル(CATV)会社ComcastおよびTimeWarner社などが大手株主となっており、これらの会社は加入者に対して4G Wimax通信サービスを再販しています。

Clearの最大株主であり、53%を持つSprintは、当初、「Clearは倒産したほうが良い」という内部意見が外部に漏れるなどして、Clearの事業継続を援護しない姿勢でした。その理由は、Clearが破産して清算されれば、最大株主で最大債権者のSprintが、Clearの基地局や通信機器などの資産を格安で最優先で購入できるからです。Sprintは2011年9~10月ごろ、Clearを買収する可能性を調査しましたが、Clearの所持負債があまりにも多額で、買収することによりSprintがその負債を引き継がないといけないので、メリットが無い、・・・という判断をしています。

しかし、ComcastやTimeWarner社など他のClear株主からの要請で、SprintはClearの救援を急ぐことになり、債権者への支払い予定前日にSprintとのWiMax再販契約を更新し、資金調達が達成できました。

Sprintは自社自力での4G LTE計画を2011年7月に発表していますが、そのサービス開始は2012年後半まで準備出来ない予定のため、2012年末までは4G通信としてClearの「WiMax 2年契約」を再販することにしており、今回のSprintとClearの再販契約更新は、2014年末までの契約になります。その後の契約はありません。

更に次の節で説明するように、Clearの他の主要株主であるケーブル会社が数日後にVerizon社との契約を行い、ClearのWiMaxの再販を止めて、VerizonのLTEを再販することに決まり、2013年~2015年以降のClear社とWiMaxの存続の心配は、まだまだ無くなったわけではありません。

Sprint社とのWiMax再販契約更新が締結されたことで、Clearは3億5千万ドルの資金調達を第3者から得えることが出来、それにマッチングでSprintが資金提供したため、Clearは一時的に資金が調達できていますが、これらの一部はClearが生き残りを掛けて既存の基地局にLTEまたはTD-LTE装置を追加整備することになっており、そのためにはまだ資金不足である、という観測もあり、今後のClearの存続(そして、WiMaxの存続)の展望は、まだ予断を許さない状況です。

資金不足が明白になってきた2011年秋ごろからClearは通信サービスの月額値段を下げ、2個以上端末を加入すると更に割引を与えるプロモーションを行うなど、価格を下げて加入者を増やそうとする、末期会社の戦略に出ています。
しかし、現在販売しているClearの端末はWiMax専用のため、WiMax電波が使えない地域では3Gにも繋がらず、役に立ちません。

いずれにせよ、WiMaxがアメリカでこれ以上(全米77都市)拡大されないことは明らかです。
 
 

VerizonがAWS周波数を36億ドルで買い取る

Verizonは将来のLTE帯域拡張のため、ケーブル(CATV)会社Comcast、Time Warner、Bright Houseの所有するAWS(上り1700MHz/下り2100MHz)の周波数帯域使用権を36億ドルで買い取ると、2101年12月2日に発表しました。
この売買契約の一部には、Clearの株主であるComcastやTime Warnerがこれまで自社のCATVサービス加入者への移動体通信サービスとしてClearのWiMaxサービスを再販していたのを中止し、VerizonのLTEサービスを再販することも決められています。したがって、ClearのWiMax事業の再販通信会社は、2012年末で再販を中止することを決めているSprint一社だけになります。

また、同じく2011年12月20日には、ケーブル会社Coxの所有するAWS帯域使用権を3億1500万ドルで買い取ることも発表しています。

Verizonは2010年12月から700MHz帯域でLTEサービスを提供していましたが、これにより近い将来AWS帯域でもLTEサービスを開始する可能性が出てきました。

また、これまでAWS帯域を使ってLTEサービスを提供してきたMetro PCS、AWS帯域を使って3Gサービスを提供してきたT-Mobile USA、そして、T-Mobile USAの買収を期待してAWS帯域にも対応したLTE通信装置を販売してきたAT&Tは、AWS電波の買い取り・使用が非常に難しくなり、LTE通信分野におけるVerizonとの格差が大きくなります。
 
 

AT&TがQualcommの700MHz周波数を19億ドルで買い取る

MediaFlo携帯用ストリーミングTVで700MHz帯域を使用していたQualcomm社は、不評だったMediaFloサービスを2011年春に廃止したために不要になった周波数使用権を、AT&Tに19億ドルで売却することで2011年夏に合意しました。

しかし、FCCがAT&T/T-Mobile合併案件を先に審議すると言うことで、Qualcommの700MHz使用権の買取審査は遅れていました。

このたび、AT&Tが正式にT-Mobile USA買収を取り下げたため、AT&TのQualcomm 700MHz帯域使用権の買い取り審議がFCCで正式に始まり、6ヶ月以内に結論が出ることになっています。

アナリストは、この案件が政府に反対される理由は無いと、分析しています。
 
 

2011年末現在のアメリカ4G通信状況

●Verizon・・・現在、全米190数都市で4G LTE(700MHz帯域上部)サービスが実施中。2013年末には現行の全ての3Gカバレッジ地域で4G LTEサービスを提供する予定。(サンホセで筆者実測値、ダウンロード15Mbpsだった。)
●AT&T・・・2011年末時点で全米15都市で4G LTE(700MHz帯域下部)サービスを実施中または予定。全米のAT&Tネットワークの80%以上はHSPA+に対応済み。
●Sprint・・・Clear/WiMaxを再販中。2012年後半には1900MHz帯域でLTEサービス開始予定。2012年末でWiMaxの再販は中止。
●T-Mobile USA・・・HSPA+サービスをAWS帯域で、全米371都市以上で実施中。うち、163都市では理論最大速度がダウンロード42Mbps。残りが理論最大速度がダウンロード21Mbps。
●MetroPCS・・・全米14~19都市でLTE(AWS帯域)を実施中。
●Clear・・・現在、全米77都市で2.5GHz WiMaxサービスを提供中(最大速度、ダウンロード15Mbps)。サービス拡大の予定は無し。2015年以降のWiMaxサービス継続も不明。LTEまたはTD-LTEの追加サービスを計画中だが、資金難が問題点で実現可能性すら現時点では不明。LTEインフラを整備すれば、Sprintがその周波数を再販する予定。
●Lightsquared・・・LTEインフラ試験中。Sprint社とLTE回線再販契約を2011年7月に締結済み。最新のテストでは、Lightsquaredのテクノロジーは軍事および民間航空制御用のGPS装置と干渉することが判明し、先の見込みは暗い。

2012年の新型iPhoneはLTE対応と予想されているので、アメリカの主要携帯通信会社はLTE通信網のサービス開始および整備・拡大を急いでいます。
WiMax対応iPhoneは、将来においても、出ないでしょう。
 
 

2011年のアメリカ・スマートフォン事情

2011年11月29日に発表されたアメリカの調査会社、ニールセン社の調査によると、2011年第3四半期(7~9月)のポストペイド契約者対象の調査結果として・・・
http://blog.nielsen.com/nielsenwire/online_mobile/android-phones-and-iphones-dominating-app-downloads-in-the-us/

●アメリカの携帯電話加入者の44%がスマートフォンを所持している。

●OS別では、
 アンドロイド 42.8%
 iOS 28.3%
 Blackberry 17.8%
 Windows Mobile 6.1%
 Palm/WebOS 2.2%
 Symbian 1.7%
 Windows Phone 7 1.2%

●メーカー別では、
 アップル 28.3%
 HTC 20.3%
 Blackberry(Research In Motion) 17.8%
 Samsung 11.0%
 モトローラ 10.6%
 ヒューレットパッカード/Palm 2.2%
 Nokia 1.7%

つまり、アメリカの携帯電話保有者の8人に一人はiPhone所有者、5.3人に一人はアンドロイド携帯所有者。

 
 

2011年12月14日に発表された消費者調査会社NPDグループの統計によると、
http://www.engadget.com/2011/12/14/shocker-android-grew-us-market-share-after-q2-ios-was-static/

アンドロイドがアップル(iOS)のシェアを喰っているのではなく、RIM(Blackberry)のシェアが急速に落ちており、アンドロイドとiOSがRIM(Blackberry)のシェアを喰っているのが現実。(統計は、2011年は1月~10月期までを含む。)

 
 
 



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