(アメリカの)通訳料は、どのくらい?


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この記事を書くと、きっと通訳エージェントさんには嫌われること間違い無いですね。(笑)

「通訳料金が高い」と思っている方が多いようですが、一度、この件をよく考察してみましょう。
ちなみに、ここでは主にアメリカに住んでいる日本語通訳者を対象にして考察します。

■1.通訳者の仕事の量と、生活を考える

まず、そもそも、通訳者が一ヶ月にどのくらい通訳の仕事をするかを考えましょう。

通訳のような仕事は、通訳者と、それを利用する側(クライアント)の日程(スケジュール)が合わないと、成約になりません。

日本がバブルで、日本企業による訪米視察が頻繁にあった1990年代前半は、アメリカでの日本語通訳者ニーズも高く、1回の視察が10日から2週間あり、その間、通訳者も訪問団と一緒に訪問地を転々として一緒に行動していました。このころであれば、希望すれば月の半分は通訳の仕事で埋めることも可能、という状況でした。

当時(1990年代前半)、税込みで月5000ドルの収入を得ようと思えば、1ヶ月のうち半分(10日間)が通訳者の実稼働時間だとして、1日500ドルの実収入があれば、通訳者は生活できたことになります。

現在は、日本企業は通訳者を現地で探す傾向にあります。依頼する日本企業としては、通訳者のホテル代とか航空運賃を払いたくないんですよね。そんな実経費で節約しようと言う腹です。
通訳者の専門分野は、2の次です。

たとえば、「ここ(デンバー)へ来る前にダラスでIT企業を訪問したのだが、通訳の方が主婦のような方で、業界を良く知らなかった。あなたは、大丈夫でしょうか?」って心配そうに筆者に聞いてきます。それとか、ラスベガスの展示会で1~2日現地通訳を使った後、「やっぱり、ITの分野って、常時(毎年)その分野の最新の情報を追っていないと、通訳は難しいですね。」とか。

筆者はIT分野で30年近く現役で働いています(今は、「いました」と過去形かな?)し、IT関係の通訳をそれなりの数、毎年定期的にすれば、最先端の技術情報も回を重ねるごとに通訳を通して自然に得られます。
したがって、翌年や次回の通訳も、前年/前回の知識を生かした通訳が出来ます。

話は逸れそうになってきましたが、つまり、通訳を依頼する側が、通訳者の質よりも、現地での(旅費、宿泊費なども含めた)実コストを重視する傾向にあるため、「頼んだものの、全然専門用語のわからない通訳だった。」という話を良く聞きます。

で、それがわれわれ通訳者にどういう影響が出てきたかと言うと・・・出張を伴う1週間というまとまった期間の通訳がほとんど無くなって来ており、住んでいる周辺地域での現地で一日、下手をすると2時間だけ、という短時間の通訳の仕事しかなくなってきているのです。こんな小刻みの仕事を、うまく沢山取ってきて、生活できる訳が無いではないですか。

今は(アメリカ)地方の多くの通訳者の1ヶ月の通訳稼働率は、4分の一以下か、それ以下に減ってきていると思います。
それでは通訳だけで生活していけないために、翻訳の仕事を取って、それで生活している人が殆どでしょう。

あと、このレートは税込みで、年末(実際には年4回)には所得税以外に、高くなってきている健康保険代や、将来の年金積み立てなども、通訳者が自分でこの貰った金額の中から払わないといけない・・・ということも考えてください。

筆者はできるだけ翻訳を引き受けないようにしていますが、翻訳の仕事と言うのは、大体締め切りまでに出来ないか、出来てもギリギリ。そういう仕事を引き受けて、その間に「明日、2時間だけ通訳して欲しい」と言う依頼が来ても、なかなか引き受けにくいものです。
あと、最近はソフト/ハード関係のマニュアルの翻訳の仕事や、特許申請書の翻訳が多いようですが、こういうサブジェクトのマニュアルの翻訳をやっているからといって、その翻訳者が、まだマニュアル化されていないような最先端技術の通訳を出来るかどうかは、別の問題です。なのに、ITマニュアル翻訳経験者に通訳も頼んだからといって、その人がちゃんとできるかどうかは、わかりませんよね。
翻訳者は、時間に余裕があって、翻訳者がわからないことは辞書やネットで調べることが出来ます。通訳者は、その場で辞書無しで瞬間的に通訳しないといけないので、ある程度の事前知識は必要です。

■2.通訳エージェントを使うと、エージェントが最高3分の一を取る

前の節に書いた理由で、通訳者は現在、月に1~2件のまとまった仕事を取れば生活できるわけではなく、毎日小さな仕事を多数こなしていかないと、生活できません。
一人で直接クライアントから取れる仕事の数は限られていますので、したがって、複数の通訳エージェントに登録し、エージェントが仕事を探してくれて、自分を指名してくれるのを期待します。

さて、この通訳エージェントは、いったい、どれくらい手数料を取るのでしょうか?考えたことがありますか?

その前に、これまで、通訳エージェントが筆者に「あんたは、1時間、または、1日、どのくらいのレートで通訳するか?」と聞いてきて、筆者が「$xx」と答えた場合、「それは高すぎる。」と反論してくる通訳エージェントはここ最近、一度も無いですね。みんな、こちらの言い値で払ってくれます。まあ、筆者もリーズナブルなレートを出しているのかもしれません。でも、そのレートでも取れなかった仕事もありますので、「通訳業を始めたばかりの人がもっと安いレートで引き受けているんだろうな・・・」と思うこともあります。

話は元に戻して、通訳エージェントの取る手数料は、「大体、通訳者に払う金額の33%から50%くらいだろう」と最近思い始めています。
たとえば、通訳者の受け取り金額が時間$40だとすると、通訳エージェントはエンド・クライアントに$60請求しているでしょう。、通訳者が時間$60貰っているとすると、通訳エージェントはエンド・クライアントに$90請求しているでしょう。通訳者が時間$120だったら、通訳エージェントはエンド・クライアントに$150請求しているでしょう。・・・てな具合です。

これに更に、通訳エージェントが日本のエージェントであれば、消費税もエンド・クライアントに請求しないといけません。今は8%ですが、そのうち10%、20%に上がっていくんですよね・・・・・

誤解しないでくださいね、われわれ通訳者にとっては、通訳エージェントの存在はとても大事で、有難いものです。沢山のポテンシャルな企業や顧客に営業してくれて、料金の回収も責任持ってしてくれます。エンド・クライアントが請求書を払おうが払うまいが、通訳エージェントは我々通訳者に15日や30日の支払い期間内にちゃんと払ってくれます。
われわれ個人通訳者にとっては、通訳エージェントは神様です。

■3.通訳エージェントと、通訳者とのしがらみう

通常、通訳者は通訳エージェントと契約を交わしており、そのなかで、「契約通訳者は、エージェントの客を横取りしない」(Non-competing Clause)項目があるのが普通です。
つまり、一度、エンド・クライアントが通訳エージェントを通して通訳者を使った場合、
● その通訳者は次回からそのエンド・クライアントとは直接交渉や契約ができません。

さらに、その「可能性」すらを事前に防ぐために、
● 通訳者は、エンド・クライアントに対して、通訳の場やその他で「フルネームを明かしてはいけない」(アメリカなので、通常は、ファーストネームだけを使うように要求されることがあります。しかし、日本人同士ではラストネームで呼び合うことがあるので、この契約項目は困るんですよね。)
● 通訳者は、エンド・クライアントに対して、名詞やEメールアドレスなど、自分の連絡先を明らかにするようなものを渡してはならない
という内容まで契約書に記載されていることもあります。

よって、わかってくださいね。一度、通訳エージェントを通して通訳すると、その後は、そのエンド・クライアントとは(契約上)直接契約は出来ませんので。

■4.通訳レートは?

通訳者の通訳レートは、通訳者が住んでいる場所(州)、通訳の種類(同時、逐次、エスコート)、通訳内容(一般旅行、医療、法廷・法律・訴訟関係、技術通訳)、支払い側が政府か私企業か、電話通訳・Skype通訳、などによっても変わってきます。

コロラド州では州の裁判所が公認法廷通訳に支払う金額は、以下のようになっています。他州に比べてコロラド州は、たぶん、低いほうだと思います。
● スペイン語などの口答試験のある言語で、筆記・口答試験を合格している認定法廷通訳者・・・1時間$45、一日2時間ミニマム、交通費は15分毎に通訳半額レート、片道150マイル以上はIRSレート
● 日本語を含む口答試験の無い言語で、筆記試験を合格している法廷通訳者・・・1時間$40、一日2時間ミニマム、交通費は15分毎に通訳半額レート、片道50マイル以上はIRSレート
● 経験の少ない法廷通訳者・・・1時間$35、一日2時間ミニマム、交通費は15分毎に通訳半額レート、片道150マイル以上はIRSレート

そして、他の通訳レートも全てこれを参考に決められているような気がします。

たとえば、弁護士/弁護士事務所からの依頼の通訳(例:deposition=法廷外証人尋問)
● 通訳者レート=時間$50、通訳エージェントがエンド・クライアントに請求するレート=時間$70-75?

医療通訳(主に病院)
● 通訳者レート=時間$35、通訳エージェントがエンド・クライアントに請求するレート=時間$50?
手術中は通訳者は規則で、待合室で1時間~2時間とじっと待っていることが多く、そのためにレートが安い。

電話通訳
● 通訳者レート=1分$0.50~$0.60、通訳エージェントがエンド・クライアントに請求するレート=1分$1?

他州(例:ニューヨークやカリフォルニア)では時間$100~120、1日$1000、半日$750でやっている人もいるようなので、うらやましいです。

筆者の土地柄と良心では所詮、1日$700~$750、半日$300~400までしか請求できませんね。それに、皆さん、夜はオーバータイム料金を1.5倍とか2倍とか請求するんですね。
筆者は朝8時から夜10時まで通訳していたことがありますが、せいぜい通常レートで12時間請求するぐらいで、オーバータイム・レートで請求したことは一度も無いんですがね。だって、筆者の理解では、労働法におけるオーバータイムは、週40時間以上労働した場合に権利があるのであって、1日の労働時間ではないと思うんですがね・・・

・・・と言うわけで、筆者の場合には、
● 個人の依頼やエスコート通訳、個人依頼の4日以上の複数日依頼は時間$35から、ミニマム時間無し。
● 単発は時間$40~60、一日最低2時間~4時間
● 技術通訳は時間$50~90、一日最低2時間~4時間
あたりですかね、目安は。

ちなみに、通訳者の料金は、拘束時間で課金されます。
たとえ8時間拘束されて、2言しか通訳しなくとも、8時間分の通訳料が課金されます。

■5.通訳者の出張料は?

通訳者が遠距離へ出張する場合には、出張に掛かった時間を、通訳レートの半額で請求するのが普通です。また、「遠距離」とは大体、通訳者の拠点地(自宅)から50マイル(80キロ)ないし100マイル(160キロ)以上の場所への遠征です。
たとえば、通訳基本レートが時間$60の場合、他州の現場へ出張するのに、自宅から現地のホテルまで8時間掛かれば、8時間x$60/2=$240を片道の出張費、$480を往復の出張費として(航空運賃、タクシー/空港シャトルなどの実費以外に)請求します。
宿泊した場合には、現地の食事代として一泊$50を(ホテル宿泊代以外に)追加します。(ニューヨーク等の通訳は、一泊$100請求する人も居るようです。)

アメリカでは、近距離移動の「交通費」の支払いは、原則、ありません。

ただし、バス・電車代や駐車代など、実費を使った場合には、通訳者は通訳エージェントまたはエンド・クライアントにそれを請求できます。(ガソリン代は、通常、請求しません。)

■6.支払い方法?

●1 日本から通訳者のアメリカの法人口座へ、事後振込み (個人口座の場合には、日本側で20%の源泉徴収をする必要があります。)
●2 現地で現金決済(昔はトラベラーズチェックと言う方法もありましたが、現在、アメリカの銀行でトラベラーズチェックを預金させてくれる銀行が減っている可能性があります。)
●3 日本でもおなじみのSquareやPaypal Nowを使って、iPhone/iPad/スマホに装着したカードリーダーで、日本のクレジットカードで現地決済。
●4 依頼企業のアメリカ支社の小切手で通訳者へ、支払い、
などが考えられます。このうち、●1の場合は、あとで日本の国税庁が日本側の企業を監査した場合に、日本国内で適用されるべく消費税を通訳料(人的役務報酬)を支払った日本企業に追徴することがあります。●2、●3、●4の場合には、「現地での経費」とみなされるので、日本の消費税は関係してこないはずです。

以上、参考になりましたか?
他に知りたいことがあったら、コメント欄に書いてください。

あと、他州の方、On-Going Rateとか裁判所公式法廷通訳レートとか、書いてくれると、参考になりますね。



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