ソフトバンク孫氏、「ここ数カ月で新しい動きがあった。」(2014年6月17日)とは何?


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ソフトバンク孫社長は、2014年6月17日、東京でのロイターとのインタビューでSprintのT-Mobile US買収に関して質問され、「ここ数カ月で新しい動きがあった。今後、さまざまな視点から、さらなる話し合いがあることを期待している」と答えたそうです。
【HTC News - ロイター記事の転載】Tモバイル買収、数カ月で新たな動き=ソフトバンク社長 – 2014年6月17日

孫氏の言う「ここ数カ月で新しい動きがあった。」とは、何でしょう?
その「ここ数カ月の新しい動き」を解説します。

SprintのT-Mobile US買収は、もし、それが発表された場合、FCC(連邦通信委員会)とDoJ(司法省)という2つのアメリカ連邦規制当局の調査が行われ、6~9ヵ月後にその調査結果を最終決定して認可されるか、条件付で認可されるか、または、否認されるかが決まります。

【ここ数カ月で新しい動きがあった。、その1】

この中でFCCの最終決定は、5人のFCC委員(うち、一人がFCC委員長)による投票によって行われます。5人はアメリカ大統領が指名し、アメリカ上院で承認され、それぞれ期間5年間の任期があります。

現在のFCC委員は5名で、

氏名 役職 地元 所属政党 任期
Jessica Rosenworcel 委員 コネチカット州 民主党 2015まで
Ajit Pai 委員 カンザス州 共和党 2016まで
Mignon Clyburn 委員 サウスカロライナ州 民主党 2017まで
Thomas Wheeler 委員長 ワシントンDC 民主党 2018まで
Michael O’Rielly 委員 ニューヨーク州 共和党 2014まで

これを見て分かるように、現在の5人は民主党所属3名と、共和党所属2名によって構成されています。

この5人は先月の「ネット中立性に関する規則変更」の投票でも、「民主党所属委員3名が賛成、共和党所属委員2名が反対」というように、政党に分かれての投票が目立っています。

SprintのT-Mobile US買収に関しては、企業に同情的な共和党委員は「AT&TとVerizonとに大きく差を付けられたこの2社が合併して、重複する部分の経費削減を図らないと、(SprintとT-Mobile USは)生存できない。業界に対しての競争的影響を継続できない。」との意見を持っていると言われ、FCC委員会で最終投票が行われた場合には、共和党の2委員は賛成(認可)する投票を投じると見られています。

消費者保護に焦点を置く民主党委員は、反対(否認)すると見られています。

ところが、この民主党委員の一人が、「SprintによるT-Mobile US買収に、同情的に傾いている」というニュースをWall Street Journalが先月(2014年5月14日)に公開しています。
【Wall Street Journal】Glint of Hope at FCC for Sprint, T-Mobile Deal – 2014年5月14日

この記事によると、民主党委員のジェシカ・ローゼンウォーセル(Jessica Rosenworcel)氏は、Wall Street Journal記者とテレコム業界の人たちが参加したミーティングで、「SprintとT-Mobile USは、独立した企業としての存続は難しいであろう」と個人的なコメントを述べているとのことです。
したがって、「彼女をもっと説得できれば、FCC委員会での投票は逆転できる」、というのがソフトバンク/Sprint側の戦略となっていると思われます。

ただし、司法省の態度はまったく変わっておらず、特に独占禁止法関連で審査する司法省に対しては、合併によって保有周波数帯域がAT&TとVerizonよりも大きく増える地域に対しては一部周波数を売却するなどの提案を含まないと、司法省の認可を取り付けることは難しいと考えられます。Sprintがもっとも多く周波数帯域を握っているTD-LTE 2.5GHzはソフトバンク孫社長の「目玉電波」これを獲得するためにSprintにClearwireを完全子会社化することを要求したくらいなので、なかなか手放したくないでしょう。その場合、どの周波数を他社に譲渡するのか、興味があります。

【ここ数カ月で新しい動きがあった。、その2】

CATV会社の加入者数で1位であるComcastが、2位のTime-Warner買収を2014年2月13日に提案し、携帯/固定電話/光TVのAT&Tが衛星TV業界1位のDirecTVを買収する発表を2014年5月20日に行い、これによって、携帯業界だけではなく、携帯電話・固定電話・有料TV(CATV、衛星TV、光TV)全てを含んだ「広義の通信業界」の再編成の加速に火が付きました。

ソフトバンク孫氏は、Comcast/Time-Warner合併提案の数ヵ月後にAT&T/DirecTV合併提案が出たことによって、FCCも司法省も「Sprint/T-Mobile US合併案」を単なる「携帯業界内での合併」と捕らえず、「(インターネット)通信業界全体での生存のための策」と見てくれるであろう、と期待しているようです。これによって、もっと真剣にSprintとT-Mobile USが抱える問題を調査してくれることを願っていると思われます。



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