Sprint(ソフトバンク)のT-Mobile US買収が、どんどん遠のいていく件


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筆者は業界アナリストではないので、情報はあちこちの聞きかじり(読みかじり?)情報しか持っておらず、こんな標題の件は自分の知識の不十分さを世間に暴露するようで、あまり書きたくないのですが・・・

しかし、日本の所謂「業界記者」様の方々にもっとしっかり調査をしていただいて、もっと現実的な記事を書いていただきたいので、標題の件で思っていることを少し書きたいと思います。

● T-Mobile USは2014年1月8日、ラスベガスのCES会場で発表会を開き、前期(2013年第4四半期)の業績の一部を発表しました。
これによると、2013年第4四半期の加入者純増は164万5000人、昨年1年間で440万人の純増があったことを明らかにしました。

これに対し、Sprintの2013年第4四半期業績は、加入者純減が証券会社アナリストコンセンサスで26万人、一部の証券会社アナリストによると40万人程度の純減になると予想しています。
このペースで行くと、1年後にはSprintが加入者ベースでNo.3からNo.4に転落、T-Mobile USがNo.4からNo.3に上昇します。

また、T-Mobile USはラスベガスのCES会場での発表会で、他社からのMNP転入者に対して、他社の2年契約早期解約料をリベートすることを翌日から実施することを発表しました。
少なくともこの発表会の直後から、そして今でも、ツィッターの世界では早速、他キャリアからT-Mobile USへ転入した沢山の人たちが、T-Mobile USのCEOのJohn Legere氏へ写真付きで転入報告を行っています。
この調子では、今期もT-Mobile USの躍進は間違いないでしょう。

これだけ今、T-Mobile USが躍進して、「業界の台風の目」的活躍をしていると、この活動を急停止されるような「(業界負け組みの)Sprintによる、(業界で今一番ホットな)T-Mobile US」買収は、公正取引・消費者保護の観点からは、アメリカ政府規制当局(司法省とFCC)は絶対に許可しないでしょう。
競争相手を潰すための買収は、許されません。

● ソフトバンクがドイツテレコムに買収案を急いで説得しているのには、もう一つ理由があります。

T-Mobile USAは2013年5月1日、業界5位のMetro PCSと合併し、T-Mobile USを形成しました。
このとき、T-Mobile USAの100%オウナーであるドイツ・テレコムは、新しく株上場したT-Mobile USの株をの74%を所有し、残りは従来のMetro PCSの株主たちが持つことになります。
しかし、ドイツテレコムが新T-Mobile USの株を株式市場で大量に短期で売ると、株が下落する可能性があるため、ドイツテレコムは、「特別な例外を除いて、合併後18ヶ月は新T-Mobile USの株を売らない」と約束しました。
その例外というのが、「ドイツテレコムが、新T-Mobile USの所有株の全部を、一度に、一投資家(企業)に売るときは、可能である。」というものです。

ドイツテレコムによるこの18ヶ月の自粛期限は、今年2014年10月末に期限が切れます。
ということは、ドイツテレコムは、今年11月1日からは自由に、新T-Mobile US株を、必要に応じて切り売りできることになります。
そして、ドイツテレコムがここ数年明らかにしているように、米国市場から徐々に手を引いて、かつ、株を売って現金を手に入れることが出来ます。

ソフトバンクはその前にドイツテレコムを説得し、ドイツテレコムの株を全部自社(またはSprint)に所有させたいのです。
なぜなら、一旦、ドイツテレコムが一般公開市場でT-Mobile US株を売り始めると、その後、ソフトバンク(Sprint)がT-Mobile US株を買い取ろうとすると、複数の投資家や投資団体、証券会社を説得しなければならなくなります。それよりは、ドイツテレコム一社だけを説得して、66%の株を一気に取得するほうが、簡単ですからね。(昨年10月にT-Mobileは 6620万株、約18億ドルを増資したので、現在のドイツテレコムのT-Mobile US株所有率は約66%になります。)
また、一般市場で株を公開買い付けすると、株価が上がって、買い取り価格が引き上がる可能性もあります。

だから、ソフトバンクは、今年2014年10月末より充分前にT-Mobile US買収を決めてしまわないと、その後は買収が今よりも難しくなるんですね。

● もう一つは、T-Mobile USの2014年1月8日の発表会にも関連しますが、業界では、このT-Mobile USの転入者コスト負担で、業界の価格競争が激化し、利益率が下がると予想されています。
現在、AT&TやVerizonはEBIDTAが50%前後の利益率ですが、T-Mobile USのCEOは35% EBITDAを目標に掲げている、と話しています。
【Reuters】Price war in U.S. mobile market raises fear of profit hemorrhage - 2014年1月11日
ということは、各社の利益率が下がり、これまでのEBIDTAを50%を基準にした銀行などからの資金調達計画では、ソフトバンク(Sprint)は利益を上げられなくなるでしょう。

これも、Sprint(ソフトバンク)によるT-Mobile US買収が日に日に困難になっていく一つの要因です。

■ こう言うことは、(買収提案が)実際に起きてみないとどうなるか分からなく、今のところはなんとも言えないのですが、少なくとも先月の段階で「買収成功は間違い無い」というような印象を与えていた日本の業界紙やメディアの報道は、もう一度、アメリカの状況やSprintとT-Mobile USの状況を精査して見直して欲しいと思います。



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「Sprint(ソフトバンク)のT-Mobile US買収が、どんどん遠のいていく件」への2件のフィードバック

  1. そもそもアメリカではsprintはどのようなキャリアなんでしょうか?
    SoftBankのように地方では圏外ばかり繋がるイメージCMを展開し、販売では契約数の水増しやお客に理解させないように複雑な契約にして購入させているような、胡散臭いキャリアなのでしょうか?
    それともdocomoやKDDIのように多少は問題あるが全うなキャリアなんでしょうか?

    管理人 返信:

    アメリカで大企業が胡散臭いことをやっていると、連邦司法省(公正取引委員会)からの罰金、各州検事局の消費者保護部からの訴訟、「これぞ金儲けの絶好のチャンス」と食いつく弁護士からの集団訴訟(集団訴訟で一番儲かるのが、弁護士)、がありますから、別に胡散臭いことはやっていないですよ。

    ただ単純に、Sprintは、金が無いだけです。
    金が無くなったのは、2005年にNextelを買収する際に、借金(社債発行)で買収したので、その利息返済が、営業利益を食った。
    金が無いために、資産(基地局、電波使用権)も一部売って運用資金にしていた時代もあるので、資産も最低限しか保有していない。

    この悪循環で、サービスの質が落ちているだけです。

    金が無いので、パトロンとしてKDDIに話を持ちかけたものの、「こんな会社、再建出来るわけが無い」とKDDIに断られたので、ソフトバンクに行った。

    そういうことです。

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